ジョン・ラギー「保護、尊重、救済フレームワーク」勉強会(4/21)講演メモ

11.04


「保護・尊重・救済フレームワークの概要レジメ」菱山氏当日配布資料[PDF 230KB]
「フレームワーク研究会4月21日配布資料」菱山氏当日発表資料[PDF 595KB]
「企業と人権に関する指針 仮訳」菱山氏当日配布資料[PDF 299KB]
「Ruggie Framework Presentation」寺中氏発表資料[PDF 2.33MB]

【日時・場所】
2011年4月21日(木) @ 地球環境パートナーシップ・プラザ(表参道)
【講演者】
菱山隆二 企業行動研究センター所長
寺中誠 東京経済大学現代法学部客員教授
【主催】
「企業と人権フレームワーク」研究会

菱山氏 講演メモ

(配布資料を基に説明したため、資料に沿っていた部分のメモは省略。配布資料「保護・尊重・救済フレームワークの概要(以下概要)」を参照。)

はじめに

(「保護・尊重・救済フレームワークの概要」 1ページ 1. 及びPPT資料を参照)
確認しなければならないのは、ラギー・フレームワークを考える際には、“企業と人権”だけの問題ととらえてはいけない。 国際的な人権尊重の全体の動き(「人権の主流化」)の中でとらえていく必要がある。
・コートジボワールの大統領選挙に係る混乱に対して国連PKOの異例の介入があった。 異例ではあるが、これは大きな人権尊重の流れの中で、安保理事会の決議が一歩踏み込んだ決断をしたといえる。 このような国際政治の事例をとってみても、人道危機が明らかでありホスト国に人権尊重の意思がなければ、内政干渉への配慮よりも、人権を保護する国際的な責任のほうが先に立つという動きが出てきている。
・もう一つのキーワードは「加担」。 イギリスのNGOがウズベクにおけるコットン産業の児童労働の例を暴露し、米国の繊維産業がウズベク政府に抗議文を送り、ウズベクからのコットン輸入を停止するなどの措置を取ったが、日本企業はほぼ無関心と言っていい。 日本政府や企業が何らかの意思表示をしない場合、またNGOなどが問題を指摘しない場合には、人権侵害への暗黙の加担とみなされることもある。 このようにバリューチェーンまで視野を広げて、企業と人権の関係を考えていく必要がある。

小史

(「概要」の1ページ 2. を基に説明)

意義と影響

(「概要」の1~2ページ 3. を基に説明)
・「GE statement of Principles on Human Rights Implementation Procedure」(PDF) を例にとれば、人権方針の設定や実行の手引きを定めており、⑤途上国におけるDue Diligenceの実行に関しても言及している。 ラギーの影響がうかがえる。

指針の内容4

(「概要」の2ページ 4.及び配布資料「企業と人権に関する指針(試訳)」を基に説明)
・対話、エンゲージメントに対する強い姿勢が、全編を通じてうかがえる。

寺中氏 講演メモ

前提

・今まで日本国内でなされてきたラギーに関する議論を振り返ると、前提をしっかり踏まえていないように感じる。
・今回議論の対象とするのは、「2008年ラギー報告書」(通称:「ラギー・フレームワーク」)およびラギー・フレームワークを具体化するための2011年の指針(Guiding Principle)であるという前提で考える必要がある。
・さらにさかのぼると、High-level委員会の国連改革文書にすでに、「保護する責任」(R2P=Responsibility to Protect/Prevent)や企業と人権の話が提起されていた。 ラギー・フレームワークの流れは、いきなり出てきたのではなく、長い間議論されてきた中に位置づけられることを再確認しなくてはならない。
・指針は2011年6月の人権理事会で最終決議がなされる。
・2010年11月の指針ドラフトの発表時には、フレームワークからの後退ではないかという批判がNGOから集中した。

既存のガイダンス文書

・Global Compact→企業の自主性重視(政府の介入を極力排除)
・Norms(道徳規範)→Global Compactが企業の自主性を尊重するという動きを受けて、法的拘束力を求めたが、国連人権小委員会で止まってしまった。 企業側から、国連、政府がその活動に対して声を出すのは制限したいという働きかけ。

同時進行している動き

・ISO26000の動き→ISOは国際団体だが、民間団体なので、影響は限定的。 人:権部分はあまり強くない。 人権団体は、“企業と人権”についてのガイダンスとしてはさらに具体的かつ詳細なものが必要であると考えている。
・企業人権訴訟が、特にアメリカで多くおこっている。
・二国間投資協定
・南アフリカのBEE(黒人経済支援法)。 国内法が重視されて投資協定で参入した北欧企業が参加できなかったため、北欧企業が二国間投資協定違反として訴えた。 → 国内法との整合性が取れていないと、国内法が優先され、負けてしまう。二国間協定の効力が不安定になってしまう。

・これら過去の動きや、現在進行している流れから、企業の自主努力だけでは限界があり、国連などの介入が必要である、という考えが生まれてくる。 また、ラギーは現在の経済システムの中では齟齬が発生している、という問題意識を持っている。

3つの領域

保護=国家の義務(国家が人権を尊重する責任)
尊重=企業の責任(企業が人権を尊重する責任)
救済(補償)=法的枠組み (それをどう使うのかという技術的な話に入っていく)

▼保護
・企業が人権問題に関わる際にどのように国家が介入するのかについて書かれている=国家が介入するという前提が明示されているという点が重要。
・国際法は十分あるが、それがきちんと使われていないという問題意識がある。 これらを強化する必要がある。 既存の条約などを使っていこうといっている
・OECD、投資協定の中で人権問題を考えるのは難しいが、国家のガイドラインを持つことの重要性を論じている。
・国家が負うのは人権を保護する義務。企業が負う人権尊重の責任、と対を成している。

▼尊重
・国際人権基準では、人権宣言とその社会権規約、自由規約、ILO基本8条約を基軸にしている。
・一次的な責任は国家にあり、企業には二次的な責任があるというのは無意味であり、企業には企業の一次的責任、人権尊重の責任があるとみなしている
・各企業のCSR方針がそれぞれの企業にあわせて作ったものであるならば、ラギー・レポートを企業として使うということは、企業の経営方針が問われているととらえなければならない

▼救済
・訴訟手続き
・非訴訟手続き(①公的なADR裁判外紛争解決手続、②企業内手続き→コンプライアンスとは違い、準司法的な手続きの仕組みを持つことが求められている)
・②の企業内手続きについて、個別の企業で対応することは困難。 またグローバル化の要請を考えると、国際的なネットワークとしておこなう必要がある。 国境を越えた普遍的管轄権を想定する必要がある。 どこの企業であっても、どこの紛争処理機関に対しても訴訟対応を求められるようになるということ。 国内人権機関、条約機関とも連携することが求められている。
・具体的には企業の中で以下のような措置が求められる
・人権保障義務を果たすための能力開発→人権教育の強化
・企業と国家が協同する際の人権保護 (JICA等が企業とプロジェクトをする時など)
・企業文化を人権尊重重視にするために
・紛争地帯での企業のためのガイダンス
・国境を越えた管轄権の問題

端的に言えば、人権訴訟のリスクは(企業にとって)格段に高まっていく

質疑/ディスカッション

Q1. 国家(日本政府)はどのように対応しようとしているのか? 国内法との関係をどう考えているのか?

A1. 【寺中】 一般的にどこの政府も企業の問題に対しては消極的にしか対応してこなかった。 それ自体が問題であると指摘されている。 企業に気を使い、政府として自主規制をしたり、政府が介入しようとしても、強いロビー活動にあい、撤回してきたという過去もある。 ラギー・レポートを創ることにより、政府が履行できるようにするというのが大きな目的であった。 EU政府からは、強い介入政策が出てくるだろう。

ラギーは、政府がどのように対応してきているのかのまとめを数か月前に発表している。 EUの政府は機敏に反応。 日本政府が何をやっているかはわからない(言及されていない)。 経済産業省が担当となっているはずだが、環境省、文科省、外務省、法務省など横断的に関係してくることは間違いない。

【菱山】米国のATCA(外国人不法行為請求権法)のEU版を創ろうとしている動きがある(資料2ページ、(4)参照)
【菱山】 では企業はどのように対応していこうとしているのか? ウズベスクの例を出したのは、日本企業がこのようなことに疎いという懸念があるから。 日本企業がターゲットになることも十分に考えられる中、社内で人権レビューをどのように行っていくのかを早い段階で考えなければいけないのでは。 環境方針を持っている企業が多いが、人権宣言に基づいた人権方針を持つべきではないか。 従業員に対する人権だけでなく、お客様に対する人権もある。ステークホルダーとのかかわりを人権という視点から吟味し、経営を見直す機会にする必要があるのではないか。

Q2. コンゴのレアメタルの情報開示に関して、日本の企業の対応が遅れているように思うが、アメリカで先進的な動きをしている企業があれば教えて欲しい。

A2. 【菱山】コンゴはリスクが高いので他から買うという動きがある。 サプライヤーとともに現地に出向いて、証明の発行も含めた、原点の確認の動きもある。 アメリカのNGOが質問票を出したが、日本企業は反応が鈍く、あったとしても「検討中」という回答がほとんどであったという評価がある。

【寺中】金融規制改革の中で、労働環境監査、資源の調達に関する監査を重視するような動きがある。 コンゴの規制は後者に属するもの。 コンゴ(キブ州)では、金・コバルト・タングステン・スズ・コルタン/タンタラム等が紛争鉱物として対象になっている。 出回っているウガンダ産タンタラム鉱石は、ウガンダでは産出されていない(鉱脈がない)。 コンゴ紛争にともない出回っている資源。 なので、国単位でなく、紛争鉱物全体のトラッキングシステムを創っていく必要がある。 トラッキングシステムまでもつとなると、ビジネスモデル自体を変えていかなくてはいけないことになる。

Q3. 義務の発生しないラギー・フレームワークは、どのように影響を与えられるのか? 特に人権についてあまり関心の高くない日本の中ではインパクトを持ちうるのか。

A3. 【寺中】“企業と人権”について整理することが一義的な目的だった。 日本企業はCSR(企業の社会的責任)として人権を考えるが、フレームワークにとっては企業のCSRの分野は「労働権、労働権以外とを分けずに取り扱う」という一部分でしかないということがわかる。 全体地図を見せることによって、例えばCSRがどのように位置づけられるのか、他の関連する機関(国家など)がどのように動いていくのかを把握できる。 書かれているすべてを企業がやらなくてはいけないわけではない。 全体像から把握することで、国の動きなどを踏まえて次のロードマップを作れるようになるのではないか。 今企業としてフレームワークを使ってやるべきことは自分たちがどこに位置づけられて、何をやってきたのかを検証、整理をすることである。

Q4. 国際的な枠組みや海外で起こったことは、(日本の)多国籍企業にとって遠いものとしてとらえられているのではないかと思う。 有害化学物質の例では、企業活動ができなくなったら困るという危機意識をもったのでは。 具体的に、商売ができなくなるのか?内外の齟齬の問題。 日本は国際的な基準とまるで違う基準で動いているので、外の動きを把握するのは大切だが、中の動きを変えるのは難しい。

A4.【寺中】 EUが包括的、政策的に指令を出して、個人情報保護などに関して世界のスタンダードとして広まっていく傾向がある。 独自基準を強く持つのは米国。 CSRの基準の軸としては、EU型と米国型がある。 完全に対立しているわけではないが、ステークホルダーのアプローチが徹底している=(EU型)、株主対策(訴訟があるため)が重視されている=米国型の違いがある。 日本は何かの基準がでたら、100%充足させることを目指す。 日本企業と日本の外資系企業に向けられた過去のアンケート調査では、外資は改善の方向性を示す傾向があるが日本企業は基準重視。 しかし、日本企業も外資企業も、実質的に行っている内容はほとんど同じだった。 基準を満たすことに対しては優等生であろうとするが、方向性を示せないという意味で致命的。

EUのモデルを見たうえで、日本はどうするのか?と考えるのもいい。 ただ、日本企業は同時にグローバル企業でもあるので、そのスタンダードが徹底されていないということで、社内の齟齬に対応する必要がある。
【菱山】外国人の社長が来る、海外研修を増やす、英語が公用語になるなど、グローバル経済の時代にふさわしい国際的な認識を身につける必要性から日本企業も変わってきている。 数年後、世界人権宣言支持を新入社員に宣言させるようなことを期待していきたい。

Q5. EUがリーダーシップをとって、EUの企業にとって有利な規約をつくっていってはいないか? 非財務諸表の開示を求める動きなど、CSRとビジネスの動きが融合されていっている印象がある。

A5. 【寺中】ラギーは米国人で、米国流の国際関係論を教えていた。 ラギー・フレームワークの構造は、国連の流れ、EUの流れを汲んで作られている。 したがって、2つの主流を融合させて作られていると言える。 米国の経営においても(株主重視)、EUでも(国の介入が強い)、使えるものになっている。 その意味で優秀。 日本は多くが米国型だが、両方の影響を受けているので使えないということはない。 ラギー・フレームワークを使って経営戦略を示すということが求められる。 しかし、戦略を示すこと自体を日本企業は苦手としている。 経営戦略室などがきちんと使いこなせるようになれば、役立つのではないか。

【菱山】 従業員、サプライヤー、顧客、地域社会の人権という視点で、CITICORPは企業の人権宣言を作っている。 このような人権の目配りを利かす動きに日本の企業も追いつくために、ラギーフレームワークに触発されていってほしい。 ISO26000もできたし、熱いうちに、今、人権に関する攻めの経営戦略を進めるのが好ましいと感じている。

Q6. 世界の人権NGOがどのようにとらえて、企業にアプローチするのか。 救済機関がどのくらい機能するのか。 それにかかっているように思える。 それらの動きについて教えて欲しい。

A6. 【寺中】 どれくらい使われているかについては、国連でまとめたものがある(2011年2月22日付の国連文書)。 国レベルで、オーストラリア、カナダ、EU、ノルウェー、スウェーデンなどがツールキットを作って対応している。 国内人権機関では、ラギーを踏まえてICC(国内人権機関のInternational Coordination Committee)が、どのように対応するかの宣言文を出している。 そのほか、国内人権機関のいくつかが方針を出している。

アムネスティがさまざまな提言をしている。 法的拘束力をもったものを、と提言してきた。 各国別の法に落とされていったときに、拘束力が発揮される。 AIは、ナイジエリアーデルタの石油採掘にラギーを使った提案を出している。 アマゾンについては、Amazon Watchなどが。広範囲なNGO、研究機関が提言を出している状態。

⇒ジョン・ラギー「保護、尊重、救済フレームワーク」勉強会 講演まとめ

ジョン・ラギー「保護、尊重、救済フレームワーク」勉強会
講演メモ

「保護・尊重・救済フレームワークの概要レジメ」菱山氏当日配布資料[PDF 230KB]
「フレームワーク研究会4月21日配布資料」菱山氏当日発表資料[PDF 595KB]
「企業と人権に関する指針 仮訳」菱山氏当日配布資料[PDF 299KB]
「Ruggie Framework Presentation」寺中氏発表資料[PDF 2.33MB]

【日時・場所】
2011年4月21日(木) @ 地球環境パートナーシップ・プラザ(表参道)
【講演者】
菱山隆二 企業行動研究センター所長
寺中誠 東京経済大学現代法学部客員教授
【主催】
「企業と人権フレームワーク」研究会

菱山氏 講演メモ

(配布資料を基に説明したため、資料に沿っていた部分のメモは省略。配布資料「保護・尊重・救済フレームワークの概要(以下概要)」を参照。)

はじめに

(「保護・尊重・救済フレームワークの概要」 1ページ 1. 及びPPT資料を参照)
確認しなければならないのは、ラギー・フレームワークを考える際には、“企業と人権”だけの問題ととらえてはいけない。 国際的な人権尊重の全体の動き(「人権の主流化」)の中でとらえていく必要がある。
・コートジボワールの大統領選挙に係る混乱に対して国連PKOの異例の介入があった。 異例ではあるが、これは大きな人権尊重の流れの中で、安保理事会の決議が一歩踏み込んだ決断をしたといえる。 このような国際政治の事例をとってみても、人道危機が明らかでありホスト国に人権尊重の意思がなければ、内政干渉への配慮よりも、人権を保護する国際的な責任のほうが先に立つという動きが出てきている。
・もう一つのキーワードは「加担」。 イギリスのNGOがウズベクにおけるコットン産業の児童労働の例を暴露し、米国の繊維産業がウズベク政府に抗議文を送り、ウズベクからのコットン輸入を停止するなどの措置を取ったが、日本企業はほぼ無関心と言っていい。 日本政府や企業が何らかの意思表示をしない場合、またNGOなどが問題を指摘しない場合には、人権侵害への暗黙の加担とみなされることもある。 このようにバリューチェーンまで視野を広げて、企業と人権の関係を考えていく必要がある。

小史

(「概要」の1ページ 2. を基に説明)

意義と影響

(「概要」の1~2ページ 3. を基に説明)
・「GE statement of Principles on Human Rights Implementation Procedure」(PDF) を例にとれば、人権方針の設定や実行の手引きを定めており、⑤途上国におけるDue Diligenceの実行に関しても言及している。 ラギーの影響がうかがえる。

指針の内容4

(「概要」の2ページ 4.及び配布資料「企業と人権に関する指針(試訳)」を基に説明)
・対話、エンゲージメントに対する強い姿勢が、全編を通じてうかがえる。

寺中氏 講演メモ

前提

・今まで日本国内でなされてきたラギーに関する議論を振り返ると、前提をしっかり踏まえていないように感じる。
・今回議論の対象とするのは、「2008年ラギー報告書」(通称:「ラギー・フレームワーク」)およびラギー・フレームワークを具体化するための2011年の指針(Guiding Principle)であるという前提で考える必要がある。
・さらにさかのぼると、High-level委員会の国連改革文書にすでに、「保護する責任」(R2P=Responsibility to Protect/Prevent)や企業と人権の話が提起されていた。 ラギー・フレームワークの流れは、いきなり出てきたのではなく、長い間議論されてきた中に位置づけられることを再確認しなくてはならない。
・指針は2011年6月の人権理事会で最終決議がなされる。
・2010年11月の指針ドラフトの発表時には、フレームワークからの後退ではないかという批判がNGOから集中した。

既存のガイダンス文書

・Global Compact→企業の自主性重視(政府の介入を極力排除)
・Norms(道徳規範)→Global Compactが企業の自主性を尊重するという動きを受けて、法的拘束力を求めたが、国連人権小委員会で止まってしまった。 企業側から、国連、政府がその活動に対して声を出すのは制限したいという働きかけ。

同時進行している動き

・ISO26000の動き→ISOは国際団体だが、民間団体なので、影響は限定的。 人:権部分はあまり強くない。 人権団体は、“企業と人権”についてのガイダンスとしてはさらに具体的かつ詳細なものが必要であると考えている。
・企業人権訴訟が、特にアメリカで多くおこっている。
・二国間投資協定
・南アフリカのBEE(黒人経済支援法)。 国内法が重視されて投資協定で参入した北欧企業が参加できなかったため、北欧企業が二国間投資協定違反として訴えた。 → 国内法との整合性が取れていないと、国内法が優先され、負けてしまう。二国間協定の効力が不安定になってしまう。

・これら過去の動きや、現在進行している流れから、企業の自主努力だけでは限界があり、国連などの介入が必要である、という考えが生まれてくる。 また、ラギーは現在の経済システムの中では齟齬が発生している、という問題意識を持っている。

3つの領域

保護=国家の義務(国家が人権を尊重する責任)
尊重=企業の責任(企業が人権を尊重する責任)
救済(補償)=法的枠組み (それをどう使うのかという技術的な話に入っていく)

▼保護
・企業が人権問題に関わる際にどのように国家が介入するのかについて書かれている=国家が介入するという前提が明示されているという点が重要。
・国際法は十分あるが、それがきちんと使われていないという問題意識がある。 これらを強化する必要がある。 既存の条約などを使っていこうといっている
・OECD、投資協定の中で人権問題を考えるのは難しいが、国家のガイドラインを持つことの重要性を論じている。
・国家が負うのは人権を保護する義務。企業が負う人権尊重の責任、と対を成している。

▼尊重
・国際人権基準では、人権宣言とその社会権規約、自由規約、ILO基本8条約を基軸にしている。
・一次的な責任は国家にあり、企業には二次的な責任があるというのは無意味であり、企業には企業の一次的責任、人権尊重の責任があるとみなしている
・各企業のCSR方針がそれぞれの企業にあわせて作ったものであるならば、ラギー・レポートを企業として使うということは、企業の経営方針が問われているととらえなければならない

▼救済
・訴訟手続き
・非訴訟手続き(①公的なADR裁判外紛争解決手続、②企業内手続き→コンプライアンスとは違い、準司法的な手続きの仕組みを持つことが求められている)
・②の企業内手続きについて、個別の企業で対応することは困難。 またグローバル化の要請を考えると、国際的なネットワークとしておこなう必要がある。 国境を越えた普遍的管轄権を想定する必要がある。 どこの企業であっても、どこの紛争処理機関に対しても訴訟対応を求められるようになるということ。 国内人権機関、条約機関とも連携することが求められている。
・具体的には企業の中で以下のような措置が求められる
・人権保障義務を果たすための能力開発→人権教育の強化
・企業と国家が協同する際の人権保護 (JICA等が企業とプロジェクトをする時など)
・企業文化を人権尊重重視にするために
・紛争地帯での企業のためのガイダンス
・国境を越えた管轄権の問題

端的に言えば、人権訴訟のリスクは(企業にとって)格段に高まっていく

質疑/ディスカッション

Q1. 国家(日本政府)はどのように対応しようとしているのか? 国内法との関係をどう考えているのか?
A1. 【寺中】 一般的にどこの政府も企業の問題に対しては消極的にしか対応してこなかった。 それ自体が問題であると指摘されている。 企業に気を使い、政府として自主規制をしたり、政府が介入しようとしても、強いロビー活動にあい、撤回してきたという過去もある。 ラギー・レポートを創ることにより、政府が履行できるようにするというのが大きな目的であった。 EU政府からは、強い介入政策が出てくるだろう。
ラギーは、政府がどのように対応してきているのかのまとめを数か月前に発表している。 EUの政府は機敏に反応。 日本政府が何をやっているかはわからない(言及されていない)。 経済産業省が担当となっているはずだが、環境省、文科省、外務省、法務省など横断的に関係してくることは間違いない。
【菱山】米国のATCA(外国人不法行為請求権法)のEU版を創ろうとしている動きがある(資料2ページ、(4)参照)
【菱山】 では企業はどのように対応していこうとしているのか? ウズベスクの例を出したのは、日本企業がこのようなことに疎いという懸念があるから。 日本企業がターゲットになることも十分に考えられる中、社内で人権レビューをどのように行っていくのかを早い段階で考えなければいけないのでは。 環境方針を持っている企業が多いが、人権宣言に基づいた人権方針を持つべきではないか。 従業員に対する人権だけでなく、お客様に対する人権もある。ステークホルダーとのかかわりを人権という視点から吟味し、経営を見直す機会にする必要があるのではないか。

Q2. コンゴのレアメタルの情報開示に関して、日本の企業の対応が遅れているように思うが、アメリカで先進的な動きをしている企業があれば教えて欲しい。
A2. 【菱山】コンゴはリスクが高いので他から買うという動きがある。 サプライヤーとともに現地に出向いて、証明の発行も含めた、原点の確認の動きもある。 アメリカのNGOが質問票を出したが、日本企業は反応が鈍く、あったとしても「検討中」という回答がほとんどであったという評価がある。
【寺中】金融規制改革の中で、労働環境監査、資源の調達に関する監査を重視するような動きがある。 コンゴの規制は後者に属するもの。 コンゴ(キブ州)では、金・コバルト・タングステン・スズ・コルタン/タンタラム等が紛争鉱物として対象になっている。 出回っているウガンダ産タンタラム鉱石は、ウガンダでは産出されていない(鉱脈がない)。 コンゴ紛争にともない出回っている資源。 なので、国単位でなく、紛争鉱物全体のトラッキングシステムを創っていく必要がある。 トラッキングシステムまでもつとなると、ビジネスモデル自体を変えていかなくてはいけないことになる。

Q3. 義務の発生しないラギー・フレームワークは、どのように影響を与えられるのか? 特に人権についてあまり関心の高くない日本の中ではインパクトを持ちうるのか。
A3. 【寺中】“企業と人権”について整理することが一義的な目的だった。 日本企業はCSR(企業の社会的責任)として人権を考えるが、フレームワークにとっては企業のCSRの分野は「労働権、労働権以外とを分けずに取り扱う」という一部分でしかないということがわかる。 全体地図を見せることによって、例えばCSRがどのように位置づけられるのか、他の関連する機関(国家など)がどのように動いていくのかを把握できる。 書かれているすべてを企業がやらなくてはいけないわけではない。 全体像から把握することで、国の動きなどを踏まえて次のロードマップを作れるようになるのではないか。 今企業としてフレームワークを使ってやるべきことは自分たちがどこに位置づけられて、何をやってきたのかを検証、整理をすることである。

Q4. 国際的な枠組みや海外で起こったことは、(日本の)多国籍企業にとって遠いものとしてとらえられているのではないかと思う。 有害化学物質の例では、企業活動ができなくなったら困るという危機意識をもったのでは。 具体的に、商売ができなくなるのか?
内外の齟齬の問題。 日本は国際的な基準とまるで違う基準で動いているので、外の動きを把握するのは大切だが、中の動きを変えるのは難しい。
A4.【寺中】 EUが包括的、政策的に指令を出して、個人情報保護などに関して世界のスタンダードとして広まっていく傾向がある。 独自基準を強く持つのは米国。 CSRの基準の軸としては、EU型と米国型がある。 完全に対立しているわけではないが、ステークホルダーのアプローチが徹底している=(EU型)、株主対策(訴訟があるため)が重視されている=米国型の違いがある。 日本は何かの基準がでたら、100%充足させることを目指す。 日本企業と日本の外資系企業に向けられた過去のアンケート調査では、外資は改善の方向性を示す傾向があるが日本企業は基準重視。 しかし、日本企業も外資企業も、実質的に行っている内容はほとんど同じだった。 基準を満たすことに対しては優等生であろうとするが、方向性を示せないという意味で致命的。
EUのモデルを見たうえで、日本はどうするのか?と考えるのもいい。 ただ、日本企業は同時にグローバル企業でもあるので、そのスタンダードが徹底されていないということで、社内の齟齬に対応する必要がある。
【菱山】外国人の社長が来る、海外研修を増やす、英語が公用語になるなど、グローバル経済の時代にふさわしい国際的な認識を身につける必要性から日本企業も変わってきている。 数年後、世界人権宣言支持を新入社員に宣言させるようなことを期待していきたい。

Q5. EUがリーダーシップをとって、EUの企業にとって有利な規約をつくっていってはいないか? 非財務諸表の開示を求める動きなど、CSRとビジネスの動きが融合されていっている印象がある。
A5. 【寺中】ラギーは米国人で、米国流の国際関係論を教えていた。 ラギー・フレームワークの構造は、国連の流れ、EUの流れを汲んで作られている。 したがって、2つの主流を融合させて作られていると言える。 米国の経営においても(株主重視)、EUでも(国の介入が強い)、使えるものになっている。 その意味で優秀。 日本は多くが米国型だが、両方の影響を受けているので使えないということはない。 ラギー・フレームワークを使って経営戦略を示すということが求められる。 しかし、戦略を示すこと自体を日本企業は苦手としている。 経営戦略室などがきちんと使いこなせるようになれば、役立つのではないか。
【菱山】 従業員、サプライヤー、顧客、地域社会の人権という視点で、CITICORPは企業の人権宣言を作っている。 このような人権の目配りを利かす動きに日本の企業も追いつくために、ラギーフレームワークに触発されていってほしい。 ISO26000もできたし、熱いうちに、今、人権に関する攻めの経営戦略を進めるのが好ましいと感じている。

Q6. 世界の人権NGOがどのようにとらえて、企業にアプローチするのか。 救済機関がどのくらい機能するのか。 それにかかっているように思える。 それらの動きについて教えて欲しい。
A6. 【寺中】 どれくらい使われているかについては、国連でまとめたものがある(2011年2月22日付の国連文書)。 国レベルで、オーストラリア、カナダ、EU、ノルウェー、スウェーデンなどがツールキットを作って対応している。 国内人権機関では、ラギーを踏まえてICC(国内人権機関のInternational Coordination Committee)が、どのように対応するかの宣言文を出している。 そのほか、国内人権機関のいくつかが方針を出している。
アムネスティがさまざまな提言をしている。 法的拘束力をもったものを、と提言してきた。 各国別の法に落とされていったときに、拘束力が発揮される。 AIは、ナイジエリアーデルタの石油採掘にラギーを使った提案を出している。 アマゾンについては、Amazon Watchなどが。広範囲なNGO、研究機関が提言を出している状態。

⇒ジョン・ラギー「保護、尊重、救済フレームワーク」勉強会 講演まとめ

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