The Asia Foundation Development Fellows Programについて

アジア財団が主催するThe Asia Foundation Development Fellows Programでは、アジア地域の40歳未満の方を対象にアジアが直面する課題と向き合うためのリーダーシップスキル育成、開発学の知識およびプロフェショナルなネットワーク作りの場を提供しています。約1年間のプログラムには、リーダーシップ研修、メンタリング/コーチング、米国スタディーツアー等が含まれます。

この度、日本人として初めてフェローに選出された小宮理奈さんにその体験をご報告いただきました。今後も多くの日本人の方にご応募いただきたいプログラムですので、是非ご一読ください。

The Asia Foundation Development Fellows Programに参加して  小宮 理奈

仲良しの同期フェローと朝食

アジア財団主催のThe Asia Foundation Development Fellows Programに日本人初のフェローとして、私が選ばれたのは、2022年1月のことだった。知らせを受けたときは喜んだものの、同期フェローのプロフィールを見て、私はすぐさま、自分が選ばれたのは間違いではないかと不安に思った。同期は、社会起業家や国営放送のニュースキャスター、トランスジェンダー・アクティビスト、大学教授など、素晴らしい経歴・バックグラウンドを持つ11名だ。出身国はインド、パキスタン、スリランカ、ネパール、ブータン、中国、フィリピン、ベトナム、アフガニスタン、マレーシア、インドネシアと多様である。しかし、そこには一つの共通点があった。皆がそれぞれ、自分のコミュニティに貢献し、「ポジティブな変革を生み出したい」という熱い想いを持っていたのである。私も、人道支援や国際協力の現場での経験を持ち、自分なりに日本社会に貢献する道を模索している。それでも、同期フェローの経験や熱意には、プログラムの最初から最後まで圧倒された。

1年間のフェローシップ・プログラムには、多くの要素が組み込まれている。主要なものとしては、1)1週間のオンライン研修(通常はアジアでの実地研修)、2)オンライン・エグゼクティブ・コーチング(計6時間)、3)オンラインでのリーダーシップ講義(毎週1回1時間を1ヶ月間)、4)2週間のアメリカでの実地研修、5)アジア財団職員や過去のフェローによるメンターシップ、6)5000ドルのPersonal Development  Plan(PDP)が挙げられる。メイン要素である、1)、2)、4)および6)について以下述べる。

1)オンライン研修

新型コロナウィルスの影響で、私たちの代ではアジアでの実地研修が叶わなかったものの、代わりに1週間のオンライン研修が4月に実施された。オンライン研修では、仕事や家庭の事情により、集中して参加することできないケースが多々ある。しかし、本研修では、私たちが研修に集中できるよう、それぞれの国でホテルに滞在するよう勧められた(ちなみに、どこで研修を受けるかも自由だったので、私は富士山の麓で研修を受けた)。

オンライン研修は、主に、1)パブリック・スピーチ、2)クリエイティビティ、3)リーダーシップスタイル、4)ウェルネスにフォーカスを当てており、私たちはその分野のスペシャリストによる講義やワークショップを受けることができた。

私が特に有益だと思ったのは、パブリック・スピーチのトレーニングである。講師は、フィリピンのオンラインメディアRapplerの初期メンバーで、現在のオンラインメディアVICEのアジア太平洋編集長を務めるNatashya Gutierrezだった。一流のジャーナリストである彼女から、普段スピーチを作るときに適用すべき「スピーチの型」を教わるワークショップは大変刺激的だった。この研修以来、私は彼女直伝の「スピーチの型」を使ってスピーチに臨んでいる。おかげで、自分のスピーチに自信を持つことができた。

2)オンライン・エグゼクティブ・コーチング

多くの日本人にとって、コーチングはあまり馴染みがないかもしれない。かくいう私も、コーチングを受けたのは1回だけである。個人の成長を重視しているフェローシップ・プログラムでは、プロによるコーチング・セッションを計8時間受けることができる。当初、アジア財団からはコーチ2名と最低1回話す機会を持つよう言われていたが、私は自分とバッググラウンドが似ているコーチと多く話したかったため、8時間全てを同じコーチに当てた。希望を伝えれば柔軟に対応してくれるのが、アジア財団の大変ありがたい点である。

なぜコーチングが私にとって重要だったかを説明するために、当時の私の事情について少々述べたい。私は2020年夏に国連を退職して帰国し、その後1年半にわたり、日本の財団にて、社会起業家を通してどのように社会にインパクトを与えるかを模索した。フェローシップ・プログラムが始まったのは、ちょうど財団を退職し、これからフルタイムの博士学生になるというタイミングだった。コロナ禍のなか慌ただしく帰国したせいか、1年以上経っても「海外(あるいは国連)で働く自分」が懐かしいような気持ちを私は持っていた。加えて、フルタイムの学生になり実社会とのつながりが薄れることへの恐怖感ともいえる焦りもあった。8時間にわたるコーチングでは、これから自分が自信を持って道を切り開けるよう、過去や現在の状況を整理することになった。コーチングを受ける中で、私にとって、一番心地悪いのは、自分の気持ちがうまく説明できないことだとよくわかった。コーチのおかげで、自分の不満や不安を的確に言語化することができ、そのおかげで、今では自信を持って自分の選択が正しく、現在の自分を肯定的に捉えることができるようになった。

4)アメリカでの実地研修

サンフランシスコでのグループランチ

10月に実施されたアメリカでの実地研修では、2週間にわたり、ワシントンDC、サンタフェ(ニューメキシコ州)、ペスカデ―ロ(カリフォルニア州)、サンフランシスコ(カリフォルニア州)を巡った。

最初の訪問先であるワシントンDCでは、ジョージタウン大学や、国際NGOの連合であるInterAction、Vital Voices(ヒラリー・クリントンが立ち上げた女性団体)を訪れ、様々なリーダーから話を聞くことができた。彼らとのディスカッションから様々なインスピレーションを得ることができたが、ワシントンDCでのメインイベントになったのは、間違いなくホワイトハウスのウェストウィング訪問だろう。ウェストウィングは、大統領の執務室を含む建物群で、一般公開はされていない。ホワイトハウス勤務者からの招待がないと立ち入ることのできない、アメリカ政治の中枢だ。大統領の執務室や、ミシェル・オバマが野菜を植え始めたことで有名なローズガーデン、ブッシュが「35 seconds commute」と呼んだ廊下、大統領邸(夜のツアーに参加したので、バイデン大統領はおそらく就寝中で灯りはついていなかった)を実際に見ることができ、忘れられない訪問となった。

東海岸と西海岸に主要都市だけを訪れるだけでは、アメリカの多様性は分からないという考えから、ワシントンDCのあとは、植民地支配の歴史と先住民文化を色濃く残すサンタフェに私たちは向かった。サンタフェでは、いくつかの博物館にめぐり、アメリカの歴史や文化を深く学ぶことができた。

最後の訪問先であるサンフランシスコでは、スタンフォード大学や、Google、ADL(Anti Defamation League)に訪問した。もっとも印象に残ったのは、アジア財団主催のチャリティ・ガラだろう。そこには、2021年にノーベル平和賞を受賞した、フィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサを始めとして、各界の重要人物が多く招待されていた。多くのフェローは自国の民族衣装を来てガラに臨み、私たちは緊張しながらも素晴らしい時間を過ごすことができた。

マリア・レッサとセルフィー

2週間に渡るアメリカ実地研修では、アメリカの歴史や文化に加え、アメリカの非営利団体やプライベートセクターがどのように機能しているかを理解する機会を得た。旅行でアメリカを訪れただけでは得られないこれらの学びは、これから自分のキャリアや社会貢献活動を考える上で大きな糧になるだろう。しかし、それ以上に有益だったのは、11人の同期フェローとの間に培われた友情だ。移動中や食事中に交わした会話から、私は多くを学んだ。みんなの温かい笑顔が今とても懐かしい。これから、彼らとどのように関わり続けることができるのか楽しみである。

6)Professional Development Plan(PDP)

サンタフェにて観光

最後に、フェローシップ・プログラムで忘れてならないのは、5000ドルのProfessional Development Plan(PDP)である。これは、自分の成長のためにフェローが自由に使えるファンドである。使い方は多様であり、海外に行って関連団体を訪問するフェローもいれば、オンラインコースで新しい分野を学ぶフェローもいる。私は、1)米国でのフィールドワーク(実地研修の前に2週間ほど、米国に移住した難民に関するリサーチを行った)、2)スワヒリ語研修、3)オックスフォード大学による強制移住研究に関するオンラインコース、4)自分が代表である任意団体Action for Japanの新規プロジェクト実施にファンドを使用した。研究も、任意団体における社会貢献活動も、私がフェローになってからの新しい試みであったため、資金面で背中を押してもらったのは大変ありがたかった。

以上、1年間のフェローシップ・プログラムの主要な要素について述べた。付け加えたいのは、本プログラムのユニークな点である「持続性」だ。1年間のフェローシップを終えたあとも、アジア財団との関係は続くのだ。およそ100名が所属するアルムナイ(フェロー卒業生)組織があり、数年に一回アジアの都市でアルムナイ会議が実施される(2023年は2月にプーケットで会議がある)。加えて、フェローが挑戦し続けられるよう、アルムナイ向けの、Changemakers Development Fundと呼ばれる小規模ファンディングが用意されている(春・秋に応募でき、各1000ドル獲得できる)。これまで、いくつかの研修を受けた経験があるが、これほどまでに包括的で、かつ持続性を考えてデザインされたフェローシップ・プログラムは他にないように思える。

日本はこれまで、世界でも有数のドナー国として、様々な国の発展に貢献してきた。しかし、言わずもがな、今でも日本は様々な問題を抱えている。アジアの国々で活躍するリーダーとともに学び、成長できるこの機会を、ぜひ多くの日本人に掴んでほしいと切に願う。最後に、このような貴重な機会をくださったアジア財団およびドナーの皆様に、心より感謝申し上げる。

小宮 理奈さんプロフィール

東京都立大学博士後期課程在籍(社会人類学専攻)。日本学術振興会特別研究員 (DC1)。任意団体Action for Japan代表。これまで、国連や国際NGO、財団に勤務し、日本、ウガンダ、ケニア、タンザニア、ヨルダン、バングラデシュにて主に難民保護に携わる。早稲田大学法学部卒、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士号(人権)、オックスフォード大学修士号(国際人権法)を取得。任意団体Action for Japanは、東北の子どもたちに国際交流の機会を提供している。

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