福島県二本松東和地区訪問インタビュー報告書

2015/4/13 文責:横山晴香

次第に春の暖かさを感じるようになった3月末、福島県二本松市東和地区へ訪問しインタビューを行った。まず初めに、菅野正寿さんの農場へおじゃました。

徹底した循環型やさしい農場
中山間地形をうまく利用した棚田

中山間地形をうまく利用した棚田

二本松駅から東和地区へ向かう道のりは緩急激しくカーブの多い道で中山間地域であることを身を持って感じた。菅野さんの農園も美しい棚田となっており、そこは新潟大学による調査も行われている場所でもあった。

 

福島県二本松東和地区訪問インタビュー報告書2田んぼの次に有機栽培しているイチゴのハウスを見せていただいた。イチゴ狩りは何度もしたことがあるが、菅野さんのイチゴは葉が生き生きとし直立しており、頂いたもぎたてのイチゴはみずみずしくとても甘かった。ハウス内では防虫の方法や、また蜂を飼い、自然受粉を促すなどの工夫も見られた。

 

福島県二本松東和地区訪問インタビュー報告書3農業で最も重要な土壌にはげんき堆肥を使っている。堆肥には、地元産業で出た廃棄物となってしまうもの(しょうゆやかつおや昆布のしぼりかす、製麺屋のくず、そばがら)が含まれ、農産物をおいしく育てるだけでなく、循環の流れを作っている。

 

福島県二本松東和地区訪問インタビュー報告書4また、トラクターにも使用したてんぷら油を積極的に使用しているという。周辺農家でも天ぷら油を利用している人は増えているという。

 
悠々と景色を眺めるヤギさんも・・・

悠々と景色を眺めるヤギさんも・・・

菅野さんの農場は私の知っている故郷の風景となんら変わりはないが、上京して都市生活が続く日々の中でふと、このような場所に舞い戻ってみると、ここにしかないものを全身で感じる。さらに菅野さんの工夫によって自然にめぐる農業を徹底させたここ東和には、東和にしかない力強さもあった。そんな菅野さんは先駆者であるが、この地域の力に惹かれてやってくる新規就農者も多い。また菅野さんとともにもの東和地区を盛り上げてきた人々もいる。彼らに話を聞くべく、農家レストラン季の子工房へと向かった。

“顔の見える”季の子工房

福島県二本松東和地区訪問インタビュー報告書6小高い丘に位置する季の子工房からは、棚田を見渡せ、そこでは農家である佐藤一夫さんとそのご家族が経営をしている。木をふんだんに使った暖かい雰囲気のレストラン内でとれたての野菜を使った料理がいただける。ここまで生産者の顔が見えるレストランは初めてだ。

 
頂いたのはなめこと味噌のピザととれたて野菜のサラダ

頂いたのはなめこと味噌のピザととれたて野菜のサラダ

私たちはそちらで、Iターン者であり、農業未経験の新規就農者である小林正典さんとゆうきの里東和ふるさとづくり協議会理事長であり、レストランを経営している佐藤一夫さんにお話を伺った。

東和に惹かれて

小林さんは震災直後の3月15日に移住してきた。東京で会社勤めをしていた小林さんは以前から現在の奥さんの影響で農業に興味があり、東和での耕作放棄地を活性化するプロジェクトに興味を持ち、移住を決めたそうだ。東京での生活は何でもそろっているように見えるが、それら都会の便利さや華やかな遊びなどは必要のないものであると小林さんは言う。都会に「生かされている」と感じた小林さんは、何にもない、だからこそ何でもできる東和にひかれたそうだ。以前は管理職だったが、人を動かすのではなく自分でやってみたいという気持ちが強く、就農三年目にしてさまざまなことに挑戦している。

こだわりの「めぐり農園」のたまご

福島県二本松東和地区訪問インタビュー報告書8現在は卵の生産に励んでおり、評判がよく生産が追い付いていないほどだそう。というのも、鶏には東和でとれたものしか使わないというこだわりぶりで、コシヒカリなどの一流品も餌として与え、素性のわかるものをめざした。卵には落ち葉を与えても放射能は移行しないこともわかっており、関東圏や地元で人気を得ている。季の子工房で、小林さんの卵を使ったできたてプリンをいただいたが、もちろん味がよいことに加え、説明してくれる生産者を目の前に「顔の見える」状態で食べ物を食べると、より一層、ありがたみを感じた。

 

充実した新規就農者のサポート

新規就農者でここまでできるのも東和のサポート体制にあると言う。他の地域と違って農協だけではなく、NPOなどにより出荷先が確保されていたり、研修制度が充実していたりと、基盤が作られており、よって選択肢が多い。山梨のある農業法人だと、縦割りの人間関係で役割分担がされているらしく、それは求めているものと異なる。濃い人間関係、居心地のよさが東和の魅力でもあるだろう。研修制度としては、まず一定期間農家の方に教わりながら、ともに暮らす。本当にこの場所でやっていけるかを再考する期間でもあり、地元農家の方も新規就農者として見極める重要な期間である。その後は、空き家を紹介してもらい、新規就農者としての生活が始まる。本人の希望を聞き、なるべく沿うようにビニールハウスや機械を提供してくれる。しかし、小林さんいわく、もう少し改善してほしい問題として、初期投資の莫大さから、トラクターなどの大型機械を共同で使ったり、気軽に使えたりする雰囲気やしくみがほしいとおっしゃっていた。それにしても、生き生きとした表情で現在の生活を語る小林さんは、今後もおいしい食材を作り出すだろう。

ふるさとづくりの苦難
笑顔で話をしてくださる小林さん(左奥)

笑顔で話をしてくださる小林さん(左奥)

現在、ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会理事長であり、季の子工房でシェフを務めてらっしゃる武藤さんにお話を聞いた。NPO法人として協議会を設立し、10年がたとうとしているが、やはり設立当時は苦労したという。当初3~5年の間は同調する人が少なく、大変だったという。平成の大合併で1市3町が新二本松市になる際、周辺部として取り残されないか、埋没しないかという不安を持つ者が集まり、1人ではできないこと、未来を見せることで賛同を得たという。何より財源を確保することも重要な側面だという。協議会はグリーンツーリズムや就農支援、ブランド化など多様な活動を行っているが、その理由としては、販売だけでは成り立たず、包括的にすべて行うことが必然的に必要になってくるもので、小さな自治体のような内的に住民主体であることの重要性を語った。例えばグリーンツーリズムとは観光客への一方的な提供ではなく、その土地の「宝探し」を互いにし、価値観を伝え合うという意味も持っている。そのほかにも道の駅の運営を委託されており、現在に至るまでそちらも苦労したらしい。もともと役場が置いただけの場所を女性のやりたいという声から直売所として始めたが、まったく人が来ず、周りにもうまくいくわけがないという声も多かったそうだ。時には、違反だと言われたりすることもあったが、ゆうきの里の活動も通してか徐々に需要が高まり、売上が伸びたそうだ。

農民として都市消費者へ伝えたいこと

都市民へ生活消費者に対しては食をどう考えるかということに向き合ってほしいとのこと。東京の食料自給率は1パーセントであり、TPPに参加すればさらに不安定な状態になること、消費者の問題であることを訴えており、持続可能性のある農村の意義について考えさせられた。

最後に
左後ろから菅野さん、小林さん、佐藤さん、 左前から長谷川さん、横山

左後ろから菅野さん、小林さん、佐藤さん、
左前から長谷川さん、横山

訪問を通して私がつくづく思ったのが、「地域の力」の再発見の重要性である。今や注目を浴びるまでとなった東和地区の地域づくりでも、最初は困難があった。しかし、多方面から宝を見つけそれを共有することで、周辺の人、行政をも巻き込み、さらには外部からも人が入ってくる。すべての始まりである「宝さがし」は地域活性化に欠かせないステップだろう。

このような機会に恵まれたこととてもうれしく思います。

協力してくださった皆様、本当にありがとうございました。

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