”socially good” を、みんなで考えたい

ケイスリー株式会社COO兼取締役、慶應義塾大学政策・メディア研究科研究員
落合千華さん


Q1:あなたが発展的評価研修に参加したのは、どういう思いやきっかけがあったからですか?

発展的評価研修に参加したのは、自身が評価を実施してきた中で、評価者としてなかなかうまくいかない、という意識があったからです。課題量とスケジュールがなかなかハードな研修であることは知っていたのですが、思い切って参加を決めました。

例えばそれまでの評価実践では、評価の目的の擦り合わせが難しいこともあり、団体側が最終成果物を活用できないこともありました。評価結果を基に提言をまとめても、団体内の一部の方から「納得いかない結果、提言があっても困る」という反応があったこともあります。というのは、その時団体側には、外部に発信するための「良い」結果を期待して評価を依頼したのであって、改善すべき結果とそれに対する提案という内容では広報できない、という失望があったのだと思います。こうしたことを含めて、評価の本質を伝える難しさをずっと実感してきました。今では評価は事業や組織をよくするための一つの手段であり、団体側との目的の確認が非常に重要だと理解を促す説明をするようになりましたが、以前は団体側にきちんと説明することができていなかった部分もあったのだと思います。

プログラム評価の実践には教科書的な本がありますが、この研修は決まったことを教えてもらう場ではなく、発展的評価とは何かをいっしょに考えていく点が他の研修とは違いました。評価だけではなく、いろいろな視点をもつ仲間たちと「発展的評価の本質とは?」という議論をしたり、互いに現場を持ち、チームで支援し合う等の設計が魅力的だとも思いました。

Q2:研修中やその後を含め、発展的評価を実践してみてどうでしたか?評価者としての手ごたえや団体側の反応、変化などがあれば教えてください。

現時点で、発展的評価の研修、実習を通じて考えぬいたことが、今の評価の実践に生きていると思います。評価の実践を通じて、事業者に対する向き合い方は確実に変わりましたね。団体に対して、評価がどういうものかを説明したり、目的の擦り合わせ方など、自分のスタンスが定まったと思います。以前は、単に事業改善を一緒に考えましょうとは言うものの、基本的には外部説明がメインの目的など、団体の意図に合わせるという姿勢でした。今は、報告書作成が主目的になるような評価はしません。団体側が自分たちの価値を高めたい、社会を変えたいという意思が明確にあるかという点を意識しています。団体側が本気で変わりたいと考えていて初めて、有効なツールの一つとして評価が機能するという考えに基づいて、評価をいっしょにやりましょうという順番に変わりました。

そういった意味で、広報志向で評価を考えている団体にも、評価が何であるかをきちんと説明し、対話するようになりました。「評価を実践したその先に何があるんでしょうか?」という問いかけを必ずしています。団体側が「とにかくSROI(社会的投資収益率)を出したい」というケースでも、まずは「SROIを選ぶ理由は?」という問いかけが必要です。

評価者として、事業者とは違う視点を持った一人として、システムシンキングや評価思考を団体に届けることはもちろん大切です。ただ、評価者ができることは限られているという謙虚さを忘れないようにしています。事業に毎日真剣に向き合っている人達に向き合いながら、大きな公共政策の枠組みも考えたり、社会の課題について広く考えたり、多面的に一緒に考え、取り組んでいくということは常にむずかしさがあり、真剣勝負だと考えています。

Q3:評価者として団体にかかわる時、あなたが一番大切にしていることは何ですか?その理由は?

意識している原則は、大きく2つあり、「社会正義」と「関係者のつながりの醸成」です。社会正義の観点では、何が正義なのか、公益なのか、”socially good”であるのかをまず考えますし、考えてほしいと伝えますし、みんなで考える機会を持つようにしています。研修の講師であるKate Mckeggさんが社会正義について話されていたのを聴いて、はっとしました。例えば、評価者(あるいは事業者)が「受益者の立場に立つ」と言った時、そこには権力性が立ちあがります。私達は、団体だけを見るのではなく、その社会地域や人々にとって何がいいのかを見なければいけない。公共政策というトップダウン的な視点と対象者からのニーズというボトムアップ的な視点も踏まえて、システムシンキングの「外部」も見るということが大切だと考えています。

もうひとつ、関係者のつながりの醸成ですが、これは評価の実践がもたらす大きな意義であり、かつ事業の成果を生むために重要な条件だと考えています。評価者にできることは限られていて、1〜3年の期間で実施していかなければならない。発展的評価の特徴の一つは、評価をマネジメントに乗せていくこと。評価者の重要な役割は、短い期間であっても、介入を通じてステークホルダー同士がつながりを高められるように動くことだと考えています。ふだん声を挙げたくても挙げられない人、挙げにくい人の声を拾い、その人たちの声をフラットな環境に乗せて伝えたるようにしたり、参加型のワークでこれまで関係性が薄かった人に事業の場に来てもらったりすることもできます。普段事業に一緒に取り組んでいる人も、今後一緒に取り組んだ方がより事業が良くなる人も、一堂に会して事業を話し合える場をもたらすことができるのは、評価ならではだと考えています。実習では、新しく事業に関わってくれそうな人たちにもできそうなことを、その場でインタビューして拾ったりもしましたね。

Q4:NPOなどの事業者は、良い評価や伴走支援にめぐり合うためにどうすればよいと思いますか?

仕組みとして、弁護士などの「法律無料相談デー」のように、評価者と団体側が、評価を本格的に実施する前に、評価を通じてやりたいことなどをよく話せる場が必要だと思います。最初はお互いの考えも当然分からない中で、評価費用を支払うなどは、やはり双方にとって大きなリスクです。

よい評価をするためには、最初にきちんと評価目的の擦り合わせをすることも大切ですが、団体自身が、自分たちが評価の主体であるという意思と姿勢をもつことが重要です。私が評価者として関わったある団体では、自分たちでロジックモデルを批判的に見て検討し直したり、データを様々な角度から分析したり、関係者にそのプロセスや結果を共有したり、と主体的に動いていました。まさに評価がマネジメントに織り込まれていく様子を見せてもらい、評価者として色々と教えてもらった過程だと思っています。評価者は、実用性も含めて運用しやすく、説得性があるフレームワークを一緒に作りますが、最終的な運用をするのは、やはり団体側なので。どんなものを求めていて、どんなものがあると社会的成果に本当につながるのか、そういった視点で評価を共にくみ上げられる関係性があると、とても良い評価になると考えています。

休眠預金活用の影響もあり、今はその意義を深くに考えずに、「評価ブーム」が先行してしまっている雰囲気もありますが、評価は社会的成果をより良く対象者、社会に届けるためのツールだということは、何度でも伝えたいですね。ロジックモデルは役に立ちますが、万能なツールではなく、私自身もとらわれすぎないように気をつけています。よりよい事業、よりよい社会をつくるために、活用できる枠組みでありツール、それが評価だと考えています。

(聞き手:事務局 清水みゆき)

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