時間をかけて信頼関係を育てる

大分県芸術文化スポーツ振興財団 参与
三浦宏樹さん


Q1:あなたが発展的評価研修に参加したのは、どういう思いやきっかけがあったからですか?

私は仕事でアートプロジェクトを評価する立場にあるので、これまでも評価士の資格を取得したり社会的インパクト評価等について学んだりしてきました。ただ、従来型評価は経営志向の視点からは納得できたものの、計画通り進んでいるかという点が重視されることもあり、団体が「やらされている」状況に陥りやすい面があります。特に私が携わるアート分野では、計画は予定通りに進まないことが普通ですし、予定調和からアートのおもしろさは生まれません。

また、従来型の政策評価などでは、客観性や独立性が強調されます。つまり、対象と評価者の距離は遠い方がいい、と。評価の専門家であっても、現場をよく見ずに「裁定」してしまうケースが往々にしてあります。けれども、それが役立つ評価を妨げる要因になってしまう場合があるのではないかと考え、評価者の客観性や独立性のあり方、実用的な評価について考えていた時にこの研修に出会いました。社会起業家に伴走しながらも評価者の立場は保つという点で、いろいろと学べると思い参加を決めました。

 

Q2:研修中やその後を含め、発展的評価を実践してみてどうでしたか?評価者としての手ごたえや団体側の反応、変化などがあれば教えてください。

研修で学んだ要素を、評価対象であるアートNPOの仕事の現場に織り込んで、評価ツールとして「バランス・スコアカード」を作りました。指標の設定は複雑な作業なので、スタッフは最初の頃はためらいを感じていたようですが、プロセスを踏むにつれ、みんなが納得してきたのを感じました。あるタイミングやポイントで、スタッフ自身に「こうすれば成果につながるんだ」という腹落ち感や主体性が出てきたように感じます。

最近、英国のアート助成機関である「アーツカウンシル・イングランド」について調べたレポートを読んで知ったのですが、英国のアーツカウンシルにはリレーションシップ・マネージャーという役職があるのです。支援先の団体に常時伴走し、現場にも行き、理事会にも出る。日本でこういうことをしているのは、ベンチャー・キャピタルのハンズオン支援ぐらいで、評価の世界では聞いたことがありませんでした。現場の状況を踏まえて改善・革新をサポートするこうした役割は、発展的評価に近いと感じます。発展的評価を学びながら試行錯誤で取り組んでいた自身の取り組みが、知らないうちにアーツカウンシル・イングランドに近い路線でやっていたのだなと気づきました。

 

Q3:評価者として団体にかかわる時、あなたが一番大切にしていることは何ですか?その理由は?

当たり前ですが、関係構築を丁寧にすることですね。信頼がなければ、評価は機能しません。

私はコミュニケーションが特に得意な人間ではありませんが、よい関係をつくれるのは、裏表がない性格が奏功しているのかもしれません。祖父の教えで「議論を吹っ掛けられて当意即妙に答えられる人間よりも、2~3日かけてじっくり応える人間になれ」というものがありました。そういうふうに自分は歩んできたと思います。それから、誰にでも分かる言葉を使うように心がけています。専門用語はとかく、評価者自身の時間を短縮するために使ってしまい、相手を置いてきぼりにしがちです。しかし、時間をかけないと信頼関係は生まれません。

 

Q4:NPOなどの事業者は、良い評価や伴走支援にめぐり合うためにどうすればよいと思いますか?

良い評価者とは、しっかり関係構築ができ、スキルがあり、且つそれぞれの現場に応用できる人だと思います。特にNPOは、事業づくりがどういうものかをきちんと理解している評価者を選ぶことが大切です。専門用語ばかりを並べたり、事業の終了後に突然出てきて評価するような評価者は避けましょう。

地方は評価人材の育成が課題です。東京から評価の専門家を呼ぶにはお金もかかりますし、難しいところがあると思います。ただ、例えば、私のフィールドである大分県では、アートマネジメントという実施プロセス(Do)に携る専門人材は結構いて、エリア内では濃いつながりがあります。こうしたネットワークを活かしながら、少しずつ評価のノウハウを伝えていくことが重要だと思います。

話は変わりますが、東京出身の私は、大分では移住組です。地方は文化的刺激が少ないと言う人もいますが、東京にいればよりアートに触れられる訳でもありません。私は小さい頃から漫画やアニメが大好きで、自分で描いたりアートを観たりすることも好きでしたが、東京勤務の時は通勤と仕事で常に駆け回り、時間にも心にも余裕がありませんでした。生活のあり方として、今の方が豊かになったと感じます。大分県にはたまたま転勤することになったのですが、別府でNPOがおもしろいアートプロジェクトをやっていることは以前から知っていて、赴任後に関係が生まれました。こうした出会いの機会も、東京より地方の方が充実していると思います。アートに対する個人的興味と、地域活性化に対するこれまでの仕事の経験がうまく重なったのは幸運だったと思います。私自身はここ数年で評価スキルの引き出しがおかげさまで増えたように思うので、「地元」にしっかり還元できるよう頑張りたいですね。

(聞き手:事務局 清水みゆき)

DE人物万華鏡

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