横浜市立大学エクステンション講座
地域指標を活用した住民参画型の持続可能な地域づくり
米国からの学びと日本の挑戦

  • 開催日時:2020年1月16日(木)14:30~16:30
  • 開催場所:横浜市立大学金沢八景キャンパス カメリアホール
  • 主催:横浜市立大学地域貢献センター
  • 共催:一般財団法人CSOネットワーク
  • 助成:国際交流基金 日米センター(CGP)
  • 後援:横浜市政策局

1. 開会挨拶
横浜市立大学大学院都市社会文化研究科 影山摩子弥教授

みなさまこんにちは。本日はタイトルにありますように地域の状態を把握するためのお話です。現在、国内外で様々な課題があります。それらの課題に取り組むためには、その課題の特徴や地域に与える影響、取り組みをした場合のインパクトなど、限られた地域の資源を効果的に利用するために、指標を活用し評価していく必要があります。

国連の掲げるSDGsにも指標があり、各指標には測定のための理論があります。指標を使って客観的に評価する必要があります。現状を把握し目標を達成する上で指標は大変重要であり、今回このような、テーマを掲げたシンポジウムを開催する運びとなりました。

本シンポジウムは、国際交流基金日米センターから助成をいただき、米国より海外ゲストをお招きしております。ご来場の皆様の中には、研究で地域をテーマとしている方、地域に関わるお仕事をされている方、ゼミで勉強をしている学生など様々な方がいらっしゃるかと思いますが、本日のお話はきっと役に立つと思います。本日はお集まりいただき本当にありがとうございます。

2. 趣旨説明
一般財団法人CSOネットワーク事務局長代行 長谷川雅子

影山先生ありがとうございました。本日の進行を務めさせていただきますCSOネットワークの長谷川と申します。CSOネットワークでは、国際交流基金日米センターから助成をいただいて、今年度、地域指標を活用したマルチステークホルダーによる参加型の地域づくりを進めております。本講座は、その事業の一環として、米国を中心に約15年に渡り、指標を活用した地域づくりを進めているコミュニティ・インディケーター・コンソーシム:CICの事務局シャンタル・スティーブンスさん、そして、CICのメンバーのコミュニティ・アドバンスド・ネットワーク:CANの事務局長のラウル・アルバレスさんをお招きして、長年の蓄積を踏まえた地域指標を鍵とした地域づくりのお話をお伺いします。

この後はシャンタルさんから、地域指標の活用の意義やその成果など総論的なお話をしていただき、その後、富山県黒部市、テキサス州オースティンの事例を、それぞれ、小柴さん、ラウルさんからご紹介いただきたいと思います。その後、3人のお話を踏まえて、会場の皆様も交えながら議論ができればと思っています。通訳レシバーは日本語が1、英語が2となっております。それではシャンタルさんより、「コミュニティアクションの基礎としてのコミュニティ指標」と題してお話していただきます。

3. 基調講演:「コミュニティアクションの基礎としてのコミュニティ指標」
コミュニティ・インディケーター・コンソーシアム 事務局長Chantal Stevens (シャンタル・スティーブンス)

皆様こんにちは。今日はお招きいただきありがとうございます。私たちはコミュニティアクションの基礎として、地域指標を使っています。なぜこの地域指標は多くの取り組みの中核にあるのでしょうか。健康であることや、不平等への取り組みなどの中核になぜ指標があるのか、この問いに答えていきたいと思います。

指標とは、何らかの事実や傾向を表すために使われます。それは時間的、地理的、また、目標をベースにしたものであったりします。時間的とは、一定期間、どのような状態であったかを見るものです。地理的文脈とは、例えば地図やグラフにおいて、似たようなサイズの街を比較したりすることを指します。時間的把握と地理的把握の両方を行うこともできます。目標というのは、水質基準など、科学的に理想的あるいはコミュニティが適切だと求める水準がゴールになります。貧困や犯罪の指標においてゼロを目指すような例が挙げられるでしょう。

地域指標は、複雑なシステムにストーリーをつけて地域住民の参加を促進するために使うことができます。住民が参加することが大切です。「私たち抜きで私たちのことを決めないで」という精神を大切にしています。これは地域について測るのであれば、地域の人も同じテーブルにつく必要があるということです。

地域指標の目的は、地域と意思決定者に情報を与えること、地域内の様々なステークホルダーを繋げること、いくつかの優先分野の変化を把握することです。地域指標は変化を測るために重要なものです。通常与えられている失業率などのデータは人々の気持ちをうまく捉えられていません。地域はそれぞれに特徴を持っています。若者の多い地域はお年寄りの多い地域とは違います。米国の研究によれば、人々は「ソフターメジャー」と呼ばれるもの、地域の人の良さや自然の美しさなど、地域への愛着を呼び起こすものに対して反応することがわかってきています。地域指標はしばしばそのような指標、多様な人々に対して寛容であるか、公園や小道が多様な人々に開放されているかなどに焦点をあてます。このような指標は、人々の地域への愛着や誇りを理解することに役立ちます。

指標は複雑な課題を判断する入り口(ウィンドウ)となります。規模に関わらず、地域は幾重にも重なり合った複数なシステムです。地域の人々は、都市、県、国レベルで起こることの影響を受けています。それ以外にも気候や経済からも影響を受けます。自然が健康とつながっているように、課題が地域に与える影響の奥行きや、広さ、つながりを見ていくことが大事になります。たとえば、経済的な格差は家族の団結やコミュニティのつながりにも影響を与えます。ひいてはそのようなつながりが地域全体にも影響を与えます。

地域の人々は自分たちが本当に理解していることを最も好みます。自分たちに関わりのあるものの情報を得ることで、住民も政策立案者も会社の社長も、時間とお金を地域のために使い、地域の経済的、社会的基盤を作り、地域のつながりが深まっていきます。この社会的基盤や地域のつながりの積み重ねが、地域の人々に、地域を自分の家と感じさせるのです。

地域指標は共通の言語にもなります。何かを起こすためには共通の言葉が必要です。CEOが事務員よりも500倍も稼ぐ状況を不公平と感じた場合に、所得格差に関する指標を用いて調査をすることは誰にでもできることであり、一般の人々が政策立案者と同じ言葉で議論し状況を改善することが可能となります。

また、地域指標は背景を伝えることにも役立ちます。主張を強化したり、政府の代表に市民が影響を与えたりすることを可能にします。データへのアクセスが民主化されることで、人々の要求や、政策や投資の効果を検証しやすくなりました。米国では、多くの地域で固定資産税が改定され、高齢者や生活困窮者が長年住み慣れた家に住み続けられるようになったという事例があります。この税金の改正は、高齢者達が高い税金のために退去を余儀なくされている実態が地域指標によって明らかになったからと言われています。この改正の2年前と2年後では、家を売る高齢者や低所得者の数は少なくなった、あるいは少なくとも以前退去者の多かった地域は安定するようになったという結果が明らかになっています。

コミュニティ指標は活動のロードマップを作る際にも役立ちます。政策決定や活動の過程における優先事項を決める際にも役立つということです。ビジョンから出発し、ゴールを策定、手段を開発し、指標やデータによって針を進めていくのです。アメリカやカナダの自治体では資金提供の優先順位をつけるためにこの地域指標に活用しています。テキサス州サンアントニオでは、助成金申請者は、申請する助成金を活用してどの指標に取り組むかを特定しなければならなくなっています。ワシントン州タコマでは、ある地区が市内のその他の地区よりも、平均寿命が10歳短いことに気づきました。彼らはその健康格差を解決するために、目標を策定し活動を展開する取り組みをスタートさせました。やがてこの取り組みは、市レベルの政策となり、この地区の人々の健康的な食事や安全に運動する機会を推進する様々な施策につながりました。

私は、サステナブルシアトルというアメリカで最初の地域指標のプロジェクトを指揮してきました。世界中で最もよく研究された地域指標プロジェクトの一つと言われています。研究によると、たとえシアトル市へのインパクトは限られているとしても、指標の特定や調査、分析、報告書の執筆などに関わったスタッフや参加したボランティアが得たものははかり知れないほど大きかったとされています。それ以前には行政や政策に全く関わったことのなかった人たちが新たなスキルを学ぶことで、その後、地域、州、そして国際的なレベルにおいて、持続可能性や地域の幸福を高める活動に携わるようになりました。中には、地方議員になった人もいました。

みなさんが地域を良くしたいと思った時、何から始めますか?枠組みの下に指標のセットを構築することが役に立ちます。指標同士が関係しバランスが取れていることがある程度前提となっていますし、指標間の複雑なつながりを理解することにも役立ちます。構造的な組織化やわかりやすい報告にも役立ちます。枠組みがないと指標選択の明確な論理的根拠が見えなくなりがちです。指標をまとめるために多くの枠組みが存在しています。最も多いのは、持続可能性、生活の質に関わるもの、最近では福祉や幸福を含むwell-beingなどでしょうか。SDGsはよく考えられているので、指標をまとめる際の包括的な枠組みとして使えると思います。

これはオーストラリアで作られた枠組みです(ANDI)。時と場所の優先順位を反映する形でいくつかの目標が掲げられています。オーストラリアの人たちにとって、先住民の幸福は重要だということがわかります。これは彼らの文化や今日の社会状況を反映したものであり、皆さんの地域には当てはまらないでしょう。皆さんの地域にあったものを作ることが重要であり、その地域特有のものを作り、地域指標のダッシュボードとして掲げることが望ましいです。例えば、地域の優先する目標が健康寿命だとしましょう。これまでよく使われている指標として、心臓疾患、がん、糖尿病、年齢ごとの死亡率があります。しかし、特定の地域では糖尿病が広がっていると言われています。ちなみにこちらは遅行指標と言ってすでに起きた事実を振り返っている指標です。

では地域指標の選択に誰が関わるのでしょうか。まずは地域の人々、地域に住んでいる人と働いている人ですね。そしてステークホルダー達、すなわち政策立案者、ビジネスオーナーなど。そして、ある分野の専門家達、その地域のことを知っているわけではないけれど、対象とする分野に詳しい人々、医者や都市計画関係者、経済学者など。それらの人々のバランスをとることが大切です。地域に住んでいる人達の持っている指標が政策を変えるのにふさわしいとは限らないですし、全てのステークホルダーがそれに気づくかどうかもわかりません。専門家の声を聞き、適切なプロセスで科学的な厳密性を踏まえて進めることが必要です。

先ほど糖尿病の例でいきますと、地域の人々、事業者、医者、政治家、まちづくり関係者そして教育関係者による話し合いから以下のような指標が提案されるとしましょう。健康的な食事にアクセスできる人口の割合、公園や歩道にアクセスできる人口の割合、歩道や横断歩道の状況、クリニックや医者の数の人口割合。これらは全て先行指標です。先行指標は何かアクションを打ち出す際に役に立ちます。

これらの指標について、様々な人々で議論することが重要です。最初に簡単にできることから始めましょう。地域の糖尿病の問題に対してすぐできること。例えば、高齢者が安全に歩けるように街灯を増やす、雨の日の外出の際に濡れないようバスの停留所を改修する、人々が新鮮で健康的な地元の食べ物を手に入れられるファーマーズマーケットを開くことなどから始めましょう。まずアクションとして明示することが重要です。これはシステムとしての解決策ですので、健康問題の解決のためにまちづくりやインフラ、企業の問題にも言及する必要があります。

指標の選択の際に重要なのは、意味のある指標、関連性のある指標を選ぶことです。オーストラリアでは先住民の権利が重要ですが、東京や横浜では重要な関連性のある指標ではないかもしれません。あるいは、大気中のNO2濃度を測定することは温室効果ガスを測定するほど重要なものにはならないかもしれない。

次に、指標の性質として、手に入ること(available)と測定可能性(measurable)が重要です。既存のデータ、リソースを使うことで分析が確実になります。

また、指標というのは、論理的または科学的に正当化できないといけない。論理的、科学的にビジョンや目標にリンクしている必要があります。そして指標は信頼性がなければなりません。測定ツールにより、一貫したデータが得られているか、あるいは調査を実施する際には統計的に意味のある数の人々に対して同じ形で質問がなされているかなどが保証される必要があります。最後に、先行指標であるか、言い換えれば目標に対してアクションを起こせるものであるか。遅行指標というのはこれまでの状況を把握するのに対して、先行指標はこれからのアクションをサポートするものなのです。

指標を開発する際に最もよくある問題は、正しい尺度で正しい期間測ることのできる正しいデータを見つけることができるかということです。一時的なデータの収集として、市民の人に、鳥の数を数えてもらったり、歩行者や自転車の数を数えてもらう市民科学(citizen science)はコミュニティの人々に関わってもらう素晴らしい方法です。

あと代替(proxy)測定という方法も、必要とするトレンドの理解を助けるもう一つの手段です。例えば、自分たちの地域で行われているイベント全ての数を知りたいけれど、そのデータが得られない場合、替わりに、市役所の許可しているイベント数を指標とするといったやり方です。定量データがない場合はストーリーとして伝える方法もあります。

これらの情報をどのように意味あるものにできるのかを考えてみましょう。双方向の(interactive)ウェブサイトが地域の成功を促進する例がいくつかあります。どのようにウェブサイトで提示していくかを見ていきたいと思います。まずはダッシュボードから。ダッシュボードはウェブサイトの心臓部にあたります。はっきりとわかりやすくカラフルに。アイコンを使うことも重要です。分析、ディスカッション内容を提示し、良質な分析を良質な記述で示す、そして、なぜその指標が重要なのかを背景情報を使って説明する。データで全てを語ることができるのか、追加できるデータ情報はないか、メタデータを揃えることなどが重要です。

また、ウェブサイトを個人に親密なものにしたり地域のアイデンティティを提示したりすることも重要です。スタッフのプロフィールやパートナーを特集するページを作り、そこに連絡先の情報を入れておくこともできますし、地域のストーリーを、なぜこの地域では成功したのかを物語として紹介することも大切です。

双方向のイベントページでは、外部の組織が参加する仕組みを提供するとともにコミュニティとのパートナーシップを築く方法を提示します。

ウェブサイトは、指標が明示する課題へ取り組みのハブとなります。わかりやすい説明が行動を促進し、パートナーを広げていき、行動をわかりやすく指標へと結びつけます。貧困に対して何らかのアクションを起こしたい人に対して、具体的に何をすれば良いかを書いておくことが重要です。

最後になりますが、課題を語り合う場を提供するのもウェブサイトの役割です。掲示板やソーシャルメディアなどを通して、議論に参加できることを示すことができます。こちらは昨日開かれたウェブサイトです。近々の課題に対して投票ができるサイトになっています。地域の活動を指標によって可視化することがウェブサイトの役割となっており、地域活動の成否もウェブサイトにかかってきています。プロジェクトが長期に亘る場合、地域に浸透するためにもウェブサイトは必要です。

最後にCICについて少しご紹介いたします。CICは地域指標の開発をサポートし、その効果の向上に寄与することを目的としています。米国、オーストラリア、ヨーロッパ、アジアなど300を超えるアクティブな団体がメンバーです。メンバーのみなさんの取り組みをCICが記録し、情報共有することを使命としています。また、近年の課題に対する調査も行なっています。CSOネットワークと黒部の皆様とともにお仕事できることを楽しみにしております。

助成をいただいた国際交流基金日米センターの皆様にも御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

長谷川

シャンタルさんありがとうございました。内容確認のご質問お受けします。特に内容でしたら、続きまして、地域指標を活用した事例を紹介していただきます。まず日本の事例として黒部市の社会福祉評議会総務課課長補佐、小柴典明さんからローカルSDGs「5GOALs for 黒部」の取り組みと題し、黒部のお話を報告いただきたいと思います。黒部は一昨年から住民参加の取り組みを始め、地域目標を策定したり、現在は目標の進捗を図る指標や、進捗状況を可視化するウェブサイトの作成を進めたりしております。それでは小柴さんお願いします。

4. 事例報告①:ローカルSDGs「5GOALs for 黒部」の取り組み
黒部市社会福祉協議会 総務課課長補佐 小柴徳明氏

黒部市より参りました小柴と申します。CSOネットワークさんと5GOALs for黒部を作りました。そもそも皆さん黒部はご存知ですか。黒部は、黒部川が平にした扇状地に4万2千人が住む地域で、高齢化率は30%と全国より若干高いよくある地方都市です。YKKというファスナーやサッシを作るグローバル企業がある企業城下町でもあります。海にも面し、宇奈月温泉という有名な温泉もあります。地図からもわかるように残念ながら黒部ダムには黒部市からは行けません。黒部の人に会ったら海のまちですねと言ってくれると嬉しいです。

地域の仕事をしていますが、僕は「みんな(地域を、社会を)良くしようと思っている」という前提をずっと持っています。話し合いをしていると意見も合わないし、喧嘩になりそうなこともあります。本当に悪い人じゃないかと思うこともありますが、みんな黒部市をよくしようと思っているはずという前提を持っています。そんな中、僕ら社会福祉協議会はどうやって黒部の地域の福祉を良くしていくかを考えています。住民の皆さん一人一人がまちづくりに参加する地域を作りたいと思っています。もしみんなが良くしたいと思っているなら、気づくきっかけと動くきっかけを作れれば参加につながるのではないかという仮説に基づいて行動しています。

2015年に地方消滅という本が出ました。日本の896の市町村が消えてしまうという本です。この時一瞬ざわつきましたね。とりあえず自分の市町村を見て大丈夫かなと確認しますよね。こういう本はリアリティがあります。僕の小学校も2クラスが1クラスに減少しました。高齢化率が上がっていることもこうやって可視化され、はっきりと提言されると考えるきっかけになります。老後の問題も同じですよね。可視化されると危機感が出ます。みんなやばいと思っています。しかしドキドキは一瞬で終わってしまいます。僕はドキドキを感じた人たちを次のアクションに繋げていくことが大切だと思っています。僕の役目は黒部の地域の活動を見える化していくこと。せっかくこれまでの活動を引き継いで、どうにかしたいと思っている人たちを次に繋げていく必要があります。今黒部がどうなっているのか、現状を人口データを含め客観的に見えるようにしたい。将来の人口ビジョンは出ていますが、ウェブに出ているデータはただのエクセルだったり、市民の声や活動がどうなっているかはわからないし、見えづらい。市民が何をどう感じ何をしているのかを見える化したいと思っています。

そして何を目指しているのかも見える化していきたい。見て気づいて、調べて心動かしてアクションに繋げていきたい。人々が参加したい活動を見つけられるようにする。活動した量が個人から見えるようにする。ボランティアセンターなどが窓口としてはありますが、ウェブで上でも活動を探し仲間を見つけられるようにしたいと考えています。

僕らはまちづくりを推進する立場です。僕の仕事は経営戦略です。一歩二歩じゃなくて10歩くらい先を見るようにしています。人・物・金・時・情報の5つの概念を軸に物事を考えています。シンクタンク事業や社内横断型プロジェクトの運営を行っていますが、社会福祉協議会はシンクタンクとしての機能が弱くなってきています。社内の経営戦略の計画も作るようにしています。調査報告書をまとめてウェブ上に上げています。

僕ら計画を作ることは結構多いんです。行政は10年間に一度、最上位計画を作ります。富山県の総合計画の分量は577ページになります。タウンページ並みです。交通、保健医療、教育など全ての部局の最上位計画です。富山県のホームページ見ると、これを6990円で売っています。県民はほぼ知りません。黒部市の総合振興計画も10年に一回作られ、分量は197ページです。黒部市社会福祉協議会も54ページに亘る計画書を作っています。僕も恥ずかしながら5年前に策定に関わっていました。しかし見ないような計画を作るのはもうやめて、今回A4 4枚にまとめ、経営戦略のように、難しいことをまとめてシンプルにわかりやすくしてみました。とはいえエビデンスをしっかり踏まえ5つのゴールにまとめたものが「5GOALS for 黒部」です。

これは社会福祉協議会が得意とするロの字会議です。意見出しを行わずに、計画書を出し説明し承認を得る会議です。ここからは何も生まれないのでもうやらないと思います。5GOALs for黒部を作る際には、性別も所属も多様な20代から70代までの幅広い年齢層のメンバーで話し合いながら、少人数のワークショップ形式の会議を行いました。このような会議は正直すごく大変です。話もまとまらないです。高齢の方は「街灯を早く治せ」と言うかと思えば、小さなお子さんを持つお母さんは「黒部って雨の時に遊ぶ場所少ないですよね」とか言います。うまくいかない会議も何度となくありましたが、色々な話や多様な価値観をみんなで分かち合いながら、地域のことをみんなで決めました。むしろ、住民の声を聞かない承認会議は異様です。私たちが行なっている会議、これが普通のコミュニティの実態だと思います。

そこで生まれたのがこの5GOALsです。中身についてこれからどうやって評価、推進していくかは推進評価委員会で話し合っているところなのですが、この中に5つのゴールと3つの重点事業があります。みんなで黒部の人たちを見守るなど、小さな福祉を充実させていく3つの重点事業の真ん中にあるのがヒアリング調査で出てきた黒部の課題です。地域の福祉を良くしていくのは地域の色々な団体や地域の人々です。その共通のゴールが5GOALsです。従来の計画にはボランティア活動を増やしましょうとか、ボランティアの登録者を増やしましょうと事業が書かれていた。でも僕らの5GOALsは目標を定めた。それぞれの団体がどのゴールと結びついて事業をやるのか、これを明確にしようとしています。それぞれの団体が自分たちの活動にゴールを紐付けながら、そのマークを意識しながら、どの団体がゴール1の活動をやっているのか、どんな活動が黒部に足りないのかを可視化することに今年度から取り組んでいます。

課題やゴールを見える化して、地域のみなさんが地域の活動に関心を持ってもらうことこそが目標だと思っています。参加というのは、話を聞く、行動を起こす、お金を寄付する、から関心を持つことや心配することも参加だと思っています。今回は、CICのお二人からも目標や活動の可視化のノウハウを学びたいと思っています。明後日黒部でご登壇いただく佐藤正隆さんは、アクトコインという個人の社会貢献活動の記録を残す新しいアプリを開発しました。そのようなアプリやウェブを使いながら活動を広げていきたいと思います。今ウェブサイトを構築中です。

最初はSDGsと紐づいていることを打ち出そうとしたのですが、まだまだ一般の方にSDGsは普及していないため、ローカルなSDGSの指標まず作ってSDGsにつながっているとこれからどんどんみんなに浸透させていきたいと考えています。

GOAL1の活動人口を増やそうという目標に対して、現状をインフォグラフィックで表すようにしてパッと見てわかるようにしています。その目標に対してどのような団体が活動しているのか、課題や目標からすぐにたどり着けるようなウェブサイトを構築したいと思っています。例えば、地域の安心見守りプロジェクトは。5GOALSではGOAL1、3、5に関連していると表しています。そのような地域の活動を、多様なメンバーによる推進評議会を作りながら、推進・評価していきます。推進するだけでなく評価することにも重きを置いています。今まで計画を作ったら4年間放置していましたので。

他のウェブサイトで社会福祉協議会とは何かについても説明しています。是非今後5GOALSの成長をみなさんに見守っていいただけると嬉しいです。ありがとうございました。

長谷川

黒部には明日から3日間シャンタルさんやラウルさんとともに移動して意見交換会や5GOALs推進フォーラムを開催する予定です。続いてラウル・アルバレスさんよりお話しをいただきます。CANは指標を活用して地域活動の指揮者のよう活動している組織です。

5. 事例報告②:パートナーシップで進める地域づくり テキサス州「CAN」の取り組み
コミュニティ・アドバンスメント・ネットワーク 事務局長 Raul Alvarez (ラウル・アルバレズ)

みなさんこんにちは。ラウル・アルバレスです。Community Advancement Network:CANの事務局長をしております。ここに来ることができて本当に嬉しいです。ご招待ありがとうございます。テキサス州オースティンに住んでいます。テキサス州はアメリカ合衆国の南部に位置しメキシコと長い国境を接しています。オースティンは真ん中ぐらいに位置しています。オースティンの絵葉書には州議事堂や街の中心を流れるコロラド川、公共の温泉プールが描かれています。テキサス大学オースティン校も有名です。

人口統計を共有したいと思います。年齢、人種による統計をご紹介します。人種はアメリカにおいて大きな課題です。18歳以下の人口の60%以上がマイノリティであるのに対し、65歳以上の高齢者になると60%〜70%を白人が占めるようになります。このような人口統計から子どもと高齢者とでは全く違った戦略を立てる必要があることがわかります。

私たちは26の団体のパートナーシップによって成り立っています。行政、教育機関、ヘルスケア、経済開発など様々な団体が連携しています。専門性が様々である中、どうやってコミュニケーションをとるかが、一つの課題です。CANでは、課題を共有しより良く理解するために対面で集まるようにしています。

パートナーだけでなく、コミュニティの人を巻き込むために様々なグループがあります。ダッシュボードをレビューするチーム、改善をサポートするチーム、学者チームや連携先を見つけるチームなどです。地域評議員会を通じて地域の声を聞くようにしています。

これがオースティンの4つのゴールになります。ゴールはCANのパートナーシップにおいて重要なものです。この枠組を作るのに丸1年かかりました。いくつもの対話や戦略的な話し合いをしました。ビジョンを作り、これらのゴールを元にいくつかの指標を作りました。最初にビジョンがあり、それをどのように評価するかが後からついてきました。

ビジョン「平等で機会にあふれたコミュニティをつくる」の下、「安全で公正で参加できていること」「基本的なニーズが満たされていること」「健康であること」「能力を十分発揮できること」の4つのゴールを掲げています。

私たちが地域の課題にどのように取り組んでいるかを紹介します。こちらは私たちの報告の中で貧困に関して調べたものになります。このダッシュボードでは、貧困率は12%と報告されています。5年前のデータと比較します。その年のデータのみを見るのではなく、過去からのトレンドを見ることも重要です。その場合の問題はどの指標に5年分のデータが蓄積されているかということです。できるだけ5年分のデータのあるものを活用しようと心がけています。我々の目標値は10%ですが現状は12%、改善は示されていますが、目標値までは達成できていません。この取り組みを続けていけばいずれ目標は達成できると考えています。ダッシュボードを見ているだけでは貧困を問題視しなくても大丈夫と考えてしまいます。しかし、経済的な格差は人種間で出てきています。貧困に陥っている少数派にも気を配らないといけません。地域の指標に関わってもらう時に重要なことは、地域の人にとって、指標が地域のみんなの状態を反映したものであると信じてもらえないと、いくらデータを提供しても信用されなくなります。

以前は、データは持っているだけで、ダッシュボードに組み込まれていませんでした。私が事務局長になってから地域の人の意見を聞いて、ダッシュボードに入れるようにしました。私たちのダッシュボードは、私たちが重要とする課題を踏まえ、報告書の内容、取り組み、計画について表現するようにしています。印刷版は28ページですが、あまり関心を惹かないので、分野ごとに3つか4つの短いレポートに分けて発行しようと考えています。リサーチ内容や課題など人によって読みたい部分が違うからです。以前は、人々の情報へのアクセスが難しいと言われていましたが、今は簡単です。モバイルフレンドリーにし、ウェブのデザインを変えることでアクセス頻度は35%アップしました。

それで私たちの指標を活用した取り組みについてお話しさせていただきます。一つは、幼稚園への準備性という指標についてです。公立学校の教育を受ける前の5歳の時に学習面や情緒や社会性がどれだけ発達しているかを指標にしています。これが不足していると、その後その子が成功することが難しくなります。データではこの指標は目標値に達していません。状況は悪化しています。この状況に対し「2000日の旅路」という取り組みを立ち上げました。United Wayが資金だけでなくファシリテイトも担っています。産まれてから6歳までの約2000日が、人間の成長において最も影響力のある時間と考えています。もちろん望む結果はまだ出ていないのですが、取り組みそのものは成功だと考えています。この取り組みを支える組織は、協議会の他に、15人くらいのリーダーチームや、子どもを対象とした教育団体を支援するチームもあります。ステイクホルダーグループには地域の親御さんも含まれており、サービスを提供する人だけでなく、より多くの方々に関わってもらいたいと考えています。

それぞれの団体が他と繋がらずに活動することを避けたいので協議会という組織にしています。プランニングのプロセスは典型的なものです。都市計画やプログラミングの世界で使われているものです。ここで重要なのは、期待に対してどのように成功を示していくかです。何か始まると人々はすぐに成果が出ると期待します。この取り組みについては9ヶ月間で評価方法を決めて、6ヶ月かけてプランを作成し、実施してから1年が経とうとしています。これでも早い方です。我々が取り組みに着手する前に計画前のプランがありそこを起点として始めたので。

対話に地域の人をどう巻き込むかについてお話しします。人は自分の話を聞いてもらいたいという欲求があります。一度自分の話を聞いてもらえない経験をすると再び参加する意欲は削がれてしまいます。ケータリングファンデーションが提唱する「審議の対話(Deliberative Dialogue)」というものがあります。トレーニングを受けたモデレーターが進行する対話の場も含まれます。1グループ8,9人の少人数による対話で、お互いの意見に耳を傾けインプットも効果的に行われます。難題を話し合う際にはこの形を使います。公平性という問題はとても重要です。議論がヒートアップすることも多いですが、少人数での審議の場を設けることで異なる意見が出ても生産性のある対話の場を作ることができます。今では、CAN以外の人々も巻き込んで審議を行えるようになってきています。例えば「安全と司法」というテーマだと、犯罪に関心のある人たちも巻き込めるようになっています。今まで関わったことのない新しい人たちにも参加してもらえるよう常に努力しています。

CANのパートナーでE3アライアンスという団体があり、若者の大学やカレッジ等での成功例や課題に関する「審議の対話」を主導しています。ダッシュボードでは緑(Yes)になっており、目標値に到達できるペースで状況が順調に改善していることが伺えます。

しかし、実際地域の人々は、経済成長における恩恵を受けていないと感じています。オースティンはアメリカ各地から色々な人が移り住んできています。ダッシュボードではうまくいっているように見えても、まだまだ取り組むべき課題は沢山あります。

最後に、リーダーシップをどのように育てていけば良いかについてお話しします。来年度CANがすべきこととして地域の声にもっと耳を傾けることが挙げられています。そこで、一人一人が、地域のメンバーや家族に対してリーダーシップを発揮することで、地域の声が掬い上げられていくと考えています。まずは、家族の中でリーダーになり、それができるようになったら地域の中でリーダーシップを発揮する形になることを期待しています。

長谷川

ラウルさんありがとうございました。3人の報告を受けてパネルディスカッションに移りたいと思います。

6. パネルディスカッション

今田

CSOネットワークの今田と申します。パネルディスカッションのファシリテーターを務めます。報告にもあったように「参加」ということが大切なので、ぜひ積極的に質問してください。お近くの人を見渡して、目があった人と話し合ってみてください。質問のある方は手を上げてください。質問が一つだと寂しいので、たくさん上げてください。3、4人からお話を聞きたいと思います。

質問1

誰も反対しないことをやっているのはわかったのですが、既存のままで良いという意見の方も多いと思います。そこをどのように調整したのか。また、黒部市社会福祉評議会で会議の形を変えたという話がありましたが、小柴さん自身の変わるきっかけはあったのでしょうか。地域でこのような取り組みを進めるには、予算が必要だと思うのですが、unpaidとpaidの人たちのバランスはどのようになっているかについて教えていただきたいと思います。

質問2

福岡でNPO向けのコンサルをしているものです。日本でも地方創生の下で策定された総合計画等では、KPIを置いて政策を進めることが始まっているのですが、うまくいってないものも多いです。そうしたものに比べてどのようにうまく機能するかを試したいと思います。そもそも目標設定があるべき町の姿を反映しておらず、形式としての市民参加でしかないことが原因だと思います。うまくいってない地域と黒部の違いについて教えていただけると嬉しいです。

質問3

地域の中にいる人たちは住民だけなのか、人だけでなく団体や企業も含めるのか、地域の中でどんな方達を想定して、どんな風に色々な方が関わられて、どんな風に指標を作られてきたのか、お話をお伺いできればと思いました。

質問4

一般の人をもっとワクワクさせるにはどうしたら良いのでしょうか。アクセスビリティの問題など色々なハードルはあるのですが、どうやったら人々がもっと参加しようと思うようなエキサイティングな対話の場になるのでしょうか。

今田

以上の質問を受けて、参加が形式的になり実質がともなわないようなことがアメリカでもあるのか、ある場合にはどのように対処するのか。またその関連で、参加したいと思わせるためには何をすれば良いのか等、順番は自由で結構ですのでお答えをいただきたいです。

シャンタル

そうですね、どのようにテーブルにつかせるかがまず大きな問題になりますね。このコミュニティ、地域は繋がりがあるわけです。子どものつながりや、行政単位、スポーツ、動物など共通の繋がりがあります。様々な親密さを共有しています。どのようにアプローチするかは、ラウルが現場でアドバイスをしているので、彼にお任せしましょう。リストを作り、どのようにテーブルに着いてもらうか、その課題に取り組むのにふさわしい人にリーチすることが大切です。また、人々が集まる場所でポスターやチラシなどを通じて情報提供することが大切です。異なる人に会議に参加してほしい時には、関心のある人のもとにこちらから出向くこともあります。参加する際に、地域の人々や職場の人たちにも一緒に参加するよう声をかけてもらうことも良いですね。そしてなぜ地域の人たちに参加を呼びかけているかを明確にすることが大切です。参加者が何を聞かれるのかをクリアにしておくことも大切です。もう一つは参加者の都合を尊重することです。集まりやすい時間の設定や軽食の用意、交通費やデイケアの提供など。参加者の意見を尊重するとともに、どのように意見が反映されたかを報告することも大事です。

ラウル

私たちの組織は行政やNPOで構成されていますので、コミュニティのメンバーの参画は重要です。地域の課題に関心を寄せる人に参加してもらえるよう心がけています。宗教団体とのパートナーシップもあるので、教会など人の集まる場所や公立図書館などを活用して情報発信を行っています。毎年、私は、プレゼンを30回ほどしています。そのような場でたくさんの意見をもらっています。例えば、ダッシュボードの形で良いレポートになるか、欠落しているものは何なのかなどの意見をもらいました。
ウェブサイトの中にも、地域の人々の発表の場を設けると地域の皆さんの反応を直に伝え感じることができます。6年ほど色々な成功例をまとめてきましたが成功は希望になります。実際に地域の幸福に向けて状況が改善していることが可視化できると、地域の人々はやっても無駄ではないという気持ちを持つことができます。

小柴

社会福祉協議会も1000回以上会議をやっていますが、聞いてほしい人が来てくれていません。子どもの未来を考えようと言っても平日の午後1時からの会議では来れる人は限られてしまい、本当に来てほしい人とはずれているんですね。誰に来てほしい会議なのかを一番明確にしないといけないと思っています。
ステークホルダーは全世代ですけど、商工会議所に案内文を持って行くと、事務局からは会長が出ますと返ってくるんです。でも、こちらから具体的に内容を指定してお願いすると適切なメンバーが参加してくれるようになりました。
僕らがよくやるのが、地域の住民座談会ですが、地域の実情を知るにはその場に来れない人の意見も必要だったりするんですね。活動計画を作るときには、当事者の会合に出ていったり、中学生・高校生などにアンケートをしたり、また、委員会で教頭先生など教育関係者に現場の声を聞いたりして、生の声をミックスしながらやって行くことが大切だと思っています。

今田

先ほどKPIが上手くいかない理由として、そもそも目標が地域の状況を反映しているか疑問であるという話がありました。指標を作るのは大事なんだけど、指標を作る前にまず自分たちの地域をどうしたら良いのか、共通のビジョンや目標の策定が必要です。日本だと難しいです。本当に意見を言うべき人が言ってくれない環境です。ポスターなどを使って、色々な人にリーチすることはとても大変だと思うんですけど、どのように実践されているのでしょうか。

ラウル

先ほどの話に近いですが、関係性のある組織にリーチをかけます。教会や図書館など、住民と関係の深い地域の団体、そのようなところを通じて信用される形でメッセージを送るようにしています。人々に信頼してもらうことが必要です。自分の参画により何かが確実に変わって行く、そのような信頼を持ってもらわなければいけない。時間を注いでもらうのであれば、それなりに期待をもたれるでしょう。成功に繋げそれを示すことが大切です。

シャンタル

KPIについて、私たちCICでも色々なことをやりました。パフォーマンスマネジメントもしくはパフォーマンスメジャメントなど、日本とは少し違うのかもしれませんが、私たちは、 KPIをマネジメントツールとして使い、コミュニティビルディングの手法としては使っていません。その役割としては、コミュニティの関心事からの連続性があります。KPIは独立して存在するわけではなく、地域にとっての成果とリンクすることによってゴールや指標に繋がると思います。それが途切れていると、KPIも含めた取り組み全体の意義のある実施にはならないでしょう。うまくいかないときはやり方を変える必要があるでしょう。それは地域の強みを生かしていないということだと思います。

今田

ありがとうございます。今のポイントは大事なポイントです。今日のテーマであるコミュニティ指標は地域を作る道具で、KPIともつながっていないといけない。KPIは管理ツールなので、コミュニティ指標とは分けて考えましょうということです。それから、翻訳の問題もあるのですが、英語でコミュニティというのは独特な響きがあります。我々も今回コミュニティインディケーターを地域指標と訳していますが、コミュニティは必ずしも場所に縛られている概念ではありません。同じような考え方やビジョンを表現している人たち、属性を共有している人たちを表す、地域を超えるニュアンスを含んでおり、日本語の地域という訳し方とは違いがあると思います。ですので、アメリカのコミュニティインディケーターの場合はそこに集まる何か共通な目的を持っている人達が行動することが前提になっていると思います。
ではもう一つの質問、お金のことについて聞いてみたいと思います。これだけ色々なことをするにはお金がかかると思いますが、誰がそれを払うのか、コミュニティインディケーターを作ったあと、データを集めてトラッキングしてウェブサイトにあげる、それもお金がかかると思うのですが、全体としてコミュニティインディケーターをつくって運用するのはどうするのか。有償・無償の問題ですね。有償で取り組む人がいて、もう一方でボランティアとして関わる人がいる場合、両者の関係性をどれくらい意識して取り組むのでしょうか。

シャンタル

資金は大きな問題です。日々、現場の方たちが直面している問題だと思います。私たちは当初年間15万ドルの予算でやっていました。これは十分ではなく、多くの課題がありました。アメリカやカナダの財団は明確な事業に資金提供したいわけです。明確なものを提示するには測定しないといけない、問題はどこにあるのか明確にしないといけない、またそうすることによって違いを生むことができるという作業を私たちはしてきたわけです。財団や企業に投資してくださいとお願いするのは大変でした。シアトルの大企業の中には関係性を築いて資金提供してくれ流ようになっても、3年後には彼らの主要な関心事が公園に移り、資金提供されなくなったという話もあります。ラウルにも現状について話してもらうと良いでしょう。

今田

少し確認にしても良いですか。アメリカの地域指標には民間のお金がついていますか、それとも公的な資金を活用していますか。

シャンタル

地域指標を作るには、民間の財団や、地域の資金提供者、財団から資金をいただくとともに、関心を持っている人たちや大学、NPO、行政、地域の人たちなども資金源となり得ます。どうやって資金調達するかは場合によって違うと思います。

ラウル

私たちの団体の役割として、地域の人たちに情報を提供したり、先ほどどうやって参加させるかという話がありましたが、我々のパートナーにもどうやってワクワクしてもらうかが課題になると思います。例えば、商工会議所が作っているレポートを元に、人々にもっとアクティブになってもらえるよう工夫しています。
教育や経済の問題は、個人のみならず世代を超えて影響を及ぼすものです。貧困もその一つです。人々が共に支援したいと思うようなテーマを見つけることも大切です。同時に助成金を見つけてくる必要もあります。幸運なことにパートナーが立ち上がってくれた事もあります。17の指標全部ではないのですが、様々な支援をしてくれています。私たちもこうしたリソースを無駄にしないように気をつけています。

今田

お話の中で商工会議所が出て来ましたが、商工会議所からも資金をもらっているのですか。

ラウル

商工会議所は5つの指標に関わっており、パートナーからは資金提供をしてもらっています。CANの予算では3名の職員しか置けませんので、取り組みとして展開したい場合は、特定のパートナーに資金提供をすることもあります。多くのパートナーからリソースを提供してもらい、より大きなインパクトを生み出そうとしています。

シャンタル

ウェブサイトは地域指標の活動の一連のプロセスの中で一番お金がかかります。ダッシュボードづくりや情報のリサーチ、技術を駆使できるスタッフなど無償で働いてくれる人や組織があると非常に助かります。

今田

すみません、時間になってしまったので有償と無償の話ももっとしたかったのですが、これでパネルディスカッションを終わりにしたいと思います。興味のある方は是非黒部に来てください。今回のシンポジウムに続くフォローアップの機会も設けていきたいと思います。シャンタルさん、ラウルさん、小柴さん今日はありがとうございました。

7. まとめ

長谷川

CICでは毎年インパクトサミットという指標を活用した地域づくりを行なっている人々の情報交換会を行なっております。今年は8月にワシントンDCで開催予定です。ご興味のある方はぜひ一緒に活動して参りましょう。今日は長い時間ありがとうございました。

記録:CSOネットワーク インターン 松下義人

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