CSOネットワーク 提言&コラム

インタビューシリーズ「CSONJな人たち」Vol.6 今田 克司<後編>

投稿日:2021/08/20
カテゴリー: 事務局日記

CSOネットワーク(CSONJ)を取り巻く人たちをご紹介するインタビューシリーズ「CSONJな人たち」第6弾は、常務理事 今田克司(後編)です。後編では、社会的インパクトについて、その概念について紐解いてもらいました。長年NPO・NGOの第一線で活躍してきた今田さんの人生観にも注目です。
※前編はこちら

――NPO・NGOの活動から社会的インパクトへどのようにつながっていったのでしょうか。
ちょっと回りくどいと思われるかもしれませんが、順を追って説明させてください。
まず、NGOの存在意義というテーマがあります。もともと、NGOという存在は慈善(チャリティ)でお金を出す仲介役という存在でした。ところが、NGOのアイデンティティも徐々に変容し始め、NGOが扱うお金の使い道についてもいろんな考えが出るようになってきました。「プロ」なんだから自分たちが給料としてもらうお金も必要ということをいろんなお金の出し手に訴えるようになったり。このあたりは今日まで議論が絶えないものです。

ところが、2005年のMake Poverty Historyでは、”We don’t want your money, we want your voice.(あなたのお金は要りません。欲しいのはあなたの声です)”と唱えました。これは新鮮でした。チャリティは今ある社会構造を是認しないまでもその土俵の上で仕事をする(セーフティネットの網から落ちてしまった人をすくい上げる)ものですが、社会構造の方に問題があり、それを変えるにはお金でなく多くの声が必要で、そのために市民参加を促すべきであるという考え方が広がりました。これは、1960年代以降のいわゆる社会運動の文脈では日本でも欧米でも言われていたことですが、チャリティを進める存在と思われていたNGOがそういうことを言い出したことは、当時は目新しかったと思います。また、それまでの段階でアドボカシーや政策提言の担い手としてのNGOのアイデンティティは、チャリティの考え方の対抗概念として育っていましたが、「欲しいのはあなたの声です」のメッセージは、社会を変えるのは政策通の一握りのNGO関係者だけではなく、そこには一人一人の参加が必要なんだとはっきりと訴える、象徴的なできごとでした。

さて、「社会的インパクト」と、この「社会構造を変える」は重なる部分と矛盾する部分があるので、全体像を少しご説明したいと思います。

(図1)90年代の構造図

 

90年代、NPOやNGOは、政府と民間企業の二項に当てはまらないサードセクターとして認識され、「非営利」「非政府」という否定のアイデンティティで特徴づけられました(図1を参照)。一方、政治学者であるペストフは、国家(公式・公的・非営利)、市場(公式・私的・営利)、共同体(非公式・私的・非営利)をそれぞれ頂点とする三角形の中央に位置づける概念図式を提唱し、それらのつなぎ役としてサードセクターを位置付けました。(図2を参照)

(図2)ペストフの三角形

(図2)ペストフの三角形

 

私にはペストフのサードセクターの考え方がしっくり来ます。サードセクターは、国家、企業に次ぐ「第三の」セクターというより、社会の中の媒介項なのです。そして、現代社会(特に日本を含む先進諸国を中心とした後期資本主義社会)は、この三角形のうち市場の役割が大きくなっている社会、つまり図2の市場の領域が他の領域を侵食している時代と言えます。市場では企業が利潤を追い求めますが、その論理が他の領域でも幅を利かせている時代です。そして、その論理を社会課題解決にもあてはめ、市場が社会課題解決の大きな部分を担う時代が、いわゆる社会的インパクトの時代と言われるものだと思います。

つまりこういうことです。企業にとっての利潤の追求、財務的リターンですが、同じ市場の論理の中で社会課題解決について語るには、社会的リターンや環境的リターンについても扱える言語をもたなければなりません。そして、これらにはポジティブな面とネガティブな面の両方があります。これを、社会的インパクトなるもので測り、流通させると考えたわけです。現在、社会的インパクトは「流行っている」と言えます。けれど、本質的なことを考えて世の中が動いているのではなく、単に流行だからと取り組んでいる向きが多いのではないでしょうか。

NPO・NGOはもちろん、社会課題解決に携わる人々は、このような時代状況をどう解釈し、自分の立ち位置をどう捉えるかが重要な問いになります。「なんとなく」という人が多いと思いますが、基本的な構図は、社会的インパクトの時代に対し、「のっかる」のか「あらがう」のかの二項対立の図式になっていると思います。「のっかる」とは、資本市場で勝負する、つまり、市場原理の中で、財務的リターンと同時に社会的リターンや環境的リターンを目指すことになります。わかりやすい例はソーシャルビジネスです。

一方で、「あらがう」動きとは、本来そうあるべきでないものも含めてすべてが市場原理の中で動いているという批判の展開です。例えば、水の民営化に関する議論はわかりやすいものかもしれません。水は”Public Good”であり、万人が何の苦もなくアクセスできるべきものです。それを民営化してしまうと、万人のアクセスが資本主義の「所有」の考えをもとに制限されてしまう、あるいは万人が購入できないような価格がついてしまうといったことが懸念されています。アクセスの格差が生じてしまうのです。

「社会的インパクト」と「社会構造を変える」が矛盾する部分があるというのはそういうことです。私などは「社会的インパクト」推進の立場として、「のっかる」立場、つまり現状の社会構造の中で勝負する立場と見られがちです。社会的インパクトの議論の中では、「市場の価値で測れないものを測ろうとする」という批判がよく聞かれますが、本質的にはもう少し土台の部分から考えていかないといけないと思います。また、これについては「新自由主義」という用語で解説する論者も多いですが、この用語はかなり「色がついて」いて、定義も曖昧なまま単なる悪者扱いされる雑な議論になることが多いので、私はこの用語は使わないようにしています。

さて、現在は、この「のっかる」と「あらがう」の二軸から全世界において摩擦が生じているという状況があります。私の見たところ、日本社会においては「あらがう」声はマージナルなもの(周縁領域)へと追いやられてしまっていると思います。NPO・NGOですら、はっきりと「あらがう」側に身を置いている団体等は支持を得られにくくなっています。

ではどうしたらいいのでしょう。「社会的インパクト」と「社会構造を変える」を重なり合わせていくには何が必要なのか、私は発想の転換だと思っています。二項対立のくびきからいかに自分を解き放つか。それを例示するために、ペストフの三角形をもじって「イマータの逆三角形」を考案してみました。(図3)ある講演で使ったものですが、「のっかる」、「あらがう」の二軸ではなく、「乗り越える」という発想を持ち込んで三軸を提唱しています。

(図3)イマータの逆三角形

 

既存の枠に留まるのが「のっかる」と「あらがう」であり、それを超越する、つまり現在の「流行」に迎合するわけではなく、現状を否定することもしない新しい立場、これを仮に「新しい資本主義」と呼んでいます。英語ではステークホルダーキャピタリズムという用語があちこちで使われ始めています。

遡って、20世紀は株主資本主義(シェアホルダーキャピタリズム)の時代と言われます。昨年、著名な経済学者であるミルトン・フリードマンが「企業の社会的責任は、きちんと稼ぎ社員と家族にお金を払うことである」という考え方を示してから50周年で、海外では結構話題になっていました。日本ではそもそも株主資本主義は根付いていないと論じる人もいますが、例えそうだとしても、グローバル社会の中で日本だけこれと無縁というわけにはいきません。儲けたら“Trickle Down”する(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる)と言われ、それがこの主張を支えていました。

それが現在、新しい資本主義へのシステムチェンジの萌芽が見られると言われます。企業の考え方も変わってきています。世界的に見ると「金儲けしているだけでは全く時代遅れである」という企業は増えています。日本においてもインパクト投資やサステナブルファイナンスへの関心が増大しており、うねりが迫ってきていることは間違いありません。こういった背景から、私は、社会的インパクトを「のっかる」と「あらがう」の二項対立の議論にしてしまうのでなく、新しい社会システムを作る「仕掛け」として捉えたいと考えています。

――こうした動きは大企業が主導しているものなのでしょうか。
もちろん、海外特に欧州を中心としたESG投資やサステナビリティの動きに敏感なのは大企業です。けれど、熱心に取り組んでいる中小企業もいます。これには経営トップの姿勢が関係していると思っています。会社としてではなく、個人として社会のサステナビリティや社会的インパクトの必要性を感じているトップの行動力は目を見張るものがあります。

大企業に関して言えば、トップの社会的発言力は大きいです。欧米のトップは自分の影響力を自覚していて、「私は」という主語で意見を語ります。一方で、日本のトップは「我が社は」とはじめるのですね。個人的に意見を述べるというような、リーダーシップの取り方をしていません。欧米のトップは、自分が成功して手にした大きなものを社会に還元しようという気持ちがより大きく、社会に対しての影響力を強く意識しています。もちろん、社会が良くならないと会社も良くならないという思いもあると思います。そうしたものが日本の大企業のトップにはまだまだ足りないという印象があります。

一方で、日本の中小企業のトップは、より自分たちが操業している現場の課題をよく知っています。また、地域金融との距離も近いです。地域でお金を回す人が地域の課題を把握しているのは当然かもしれません。B Corp(※)認証を取りたいという日本の中小企業も多くなってきていて、そうした企業は先進的意識を持って実践しているように思われます。社長が物事の本質を意識し、自社の経営がどのように環境課題や地域課題の解決に役立つかという点を、経営に統合している中小企業は確実に増えてきています。
(※)B Corp:B Corporationの略称で、アメリカの非営利団体B Lab (2006年設立)が営利企業に対して認証する制度。ガバナンス、働く人、コミュニティ、環境、カスタマーの5分野で、社会や環境に配慮した経営を行っているかをチェックし、B Labの掲げる基準を満たすことが認証条件。

2019年7月、発展的評価のフィールドワークで大雪山を訪れる(河合将生氏と)

ーー今田さんの今後の目標を教えてください。
2017年、2018年にCSOネットワークの事業で発展的評価研修を行った際に、バックキャスティングとフォアキャスティングの両刀使いになる必要性をお話ししたことがあります。これを実践していきたいというのが私の答えになると思います。

バックキャスティングというのはまさにSDGsに体現されているもので、はじめに最終ゴールを決めて、逆算して進捗をアウトカムレベルで見るものです。フォアキャスティングというのは天気予報的なやり方で、現状を把握して次に起こることを予測し、なるべく早いフィードバックループを作って評価をするものです。小さな学び、小さな分岐点がのちのち大きな違いにつながることを意識するのがポイントです。

発展的評価は基本的にフォアキャスティング型です。なぜなら、世界は今非常に複雑で、中長期計画を作っている間にどんどん変っていってしまいます。3年前、5年前に設定したゴールが妥当でなくなる可能性があります。けれど、だからといって「行き当たりばったり」では問題ですよね。フォアキャスティングでは、自分の周りで起こっていることをしっかり認識してエビデンスとして取得して、意思決定していく。フィードバックループをどんどん回していくことを推奨しているわけです。

そのための3つの質問があります。発展的評価に限らず、評価研究で概念整理として使われているもので、「なに/What?(事実特定)」、「それで/So What?(解釈・価値判断)」、「さて/Now What?(意思決定・行動)」というのですが、これを常に意識することで評価の思考のくせをつけ、思い込みやそれによる即断を少なくすることができます。事実に沿った行動を実践していくための質問であり、フォアキャスティング型では特に有効です。もちろん、バックキャスティングも必要です。ただ、プランが崩れたときに軌道修正できるかはフォアキャスティング型の思考を日々できているかで決まると思っています。

ですから、誤解を恐れずに言えば「次の目標は」という質問に対する答えは「なるようにしかならない」です。日々身の回りで起こっていることを見定めていると、自分の進む方向は自ずから分かってくると考えています。間違えだらけかもしれませんが(笑)。CIVICUS(※)での経験が現在の活動につながっているのも、縁があって学んだことを今後の社会に必要とされるであろうという目線で育て、社会的インパクトをキーワードに仕事を広げてきたからだと思っています。チャレンジングなのは、自分の鍛錬ができていないと見誤ってしまうところです。やみくもに頑張っているだけでもだめで、鍛錬と洞察が必要なのです。易きに流れず、学んできたこと、持っていることを社会の役に立てていければ本望です。
(※)前編を参照

聞き手所感:
社会的インパクトについてはもちろん、これからの自分の生き方まで考えてしまうような深いお話が聞けたインタビューでした。

今回で、インタビューシリーズ「CSONJな人たち」は最終回です。私自身「CSOネットワークって何してるの?」という質問に上手く答えられず、CSOネットワークに関わる「人」を紹介することでもっと広く深く知ってもらおう、そう思ったのがこのシリーズのはじまりでした。CSONJな人たちそれぞれの人間味あふれるストーリーによって、CSOネットワークが皆さまにとって少しでも近い存在になれば幸いです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

聞き手:CSOネットワーク プログラムアソシエイト 山本真穂

プロフィール:

今田 克司(いまた かつじ)
常務理事

(株)ブルー・マーブル・ジャパン代表取締役、(一財)社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)代表理事、(特活)日本評価学会常任理事・研修委員長、(一社)SDGs市民社会ネットワーク理事、(特活)日本NPOセンター理事。
社会的インパクト・マネジメント関連では、2015年内閣府社会的インパクト評価ワーキンググループ委員、2016年度よりSIMI共同事務局メンバー等。2017年度より、CSOネットワークで「発展的評価」研修事業(伴走評価エキスパート事業)、日本NPOセンターで「事業評価コーディネーター」研修事業を開発・主導。SDGs時代における「役に立つ評価」の評価文化やインパクト・マネジメントを根づかせる試みで牽引役を果たしている。
2019年より休眠預金等活用法における指定活用団体である日本民間公益活動連携機構(JANPIA)評価アドバイザー、国際協力機構(JICA)事業評価外部有識者委員会委員。2020年より金融庁・GSG国内諮問委員会共催「インパクト投資に関する勉強会」委員。

講師派遣についてはこちらをご参照ください。

 

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