CSOネットワーク 提言&コラム

『ケースから考える「ビジネスと人権」ライブラリー』、今回のテーマは『「ビジネスと人権」取り組みにおける「当事者リスク」と「関与・責任」の視点』

投稿日:2022/07/04

代表理事の古谷です。今回は、『「ビジネスと人権」取り組みにおける「当事者リスク」と「関与・責任」の視点』をテーマに取り上げます。

現在、企業における人権尊重、具体的には「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、指導原則)への取り組みを促すイベントが目白押しである。そこで気になるのが経営リスクの強調だ。たしかに海外での法制化の動き、日本では2020年に国別行動計画の策定に続き、国による調査、さらには今年になってガイドライン策定の動きへと加速している。また、メディア上では企業のさまざまな人権の問題が話題になり、ときには海外取引にも影響を及ぼすなど、まさに経営リスクの様相を呈している。

もちろん企業は指導原則に沿って、人権への負の影響とリスクを特定し、リスクを分析・評価して適切な対策を策定・実行するプロセスである「人権デュー・ディリジェンス」に取り組みはじめている。しかし、その必要性を説く主張の多くは、レピュテーションリスク、法務リスク、財務リスク、人的リスクなど「経営リスク」に焦点をあてるものが多い。たしかに企業が人権リスクに取り組まないことが大きな経営リスクになることはたしかであろう。しかし、経営リスクに焦点を当て過ぎることに問題はないのだろうか。

経営リスクに対するリスクマネジメントは、一般的に、縦軸に「影響度」、横軸に「発生可能性」という分布図であるリスクマトリクスにより優先度を判断してリスク対策が行われている。ただ、人権リスクについては次のような問題を生みかねない。第一に、人権の当事者(rights-holder)にとって深刻な影響をもたらすケースであっても、社会であまり問題になっていないなど、自社への影響が高くないと判断される場合、企業は経営リスクが低いと判断して取り組まない可能性がある。第二に、経営リスクは経営の外部環境についての経営への影響を問題にし、自社の「関与・責任」は考慮しない。そうすると、人権リスクについて、自社の関与・責任が高いケースであっても、人権への影響度が小さい場合には経営リスクが低いと判断して取り組まない可能性がある。

人権リスクに取り組むということはどういうことなのか。それは、現に起きている人権当事者のリスクがどのようなものか、そこに企業はどのようにかかわるべきなのかを評価して対策を実施するものである。それが人権デュー・デリジェンスである。そこでの人権リスクの把握については、まず当事者の人権の深刻度や被害者数の大きさを考慮することが重要なポイントである。つぎに企業の取組みについては、自社が人権リスクに直接に関わっているのか、間接的なのか、またその関わりは、単一の主体としてなのか、他の事業者とともに関わっているかがポイントである。つまり企業の「関与・責任」の程度が問題となる。以上から、企業が人権リスクと正しく向き合うためには、「人権当事者リスク」と自社の「関与・責任」の視点が重要と考える。

この2つの視点に基づき人権取り組みの優先度を評価するモデルとして、デンマーク人権研究所の「弧で描く人権優先度」(*1)が提唱されている。縦軸に「人権への影響度」として、その深刻度や被害者数で判断し、横軸に「自社とのつながり」として、自社が直接・間接、あるいは単体・共同の責任があるかについて人権への関与や責任のつながりを見ていくものである。

指導原則の提唱者であるラギー(2014、p.147)は次のように言う(*2 )。

人権デュー・デリジェンスは、人権特有の目的を反映しなければならない。その目的は、企業が人権を尊重する自らの責任に取り組むことだった。そうであればそれは、企業自身への具体的なリスクを明らかにして管理することを超えて、企業の活動やそれに結び付けられた関係性が、影響を受ける個人や地域社会の権利にもたらすかもしれないリスクを含むようにならなければならない。

 

企業が正しい人権尊重の取り組みを行うことによって、一人ひとりが尊重される持続可能な社会の実現が大きく前進するに違いないと考える。

『ケースから考える「ビジネスと人権」ライブラリー』、次回もお楽しみに。

 

(参考)

*1: ジョン・ジェラルド・ラギー、東澤靖訳(2014)『正しいビジネス』岩波書店、147頁

*2: Mike Baab and Margaret Jungk, The Human Rights and Business Department (2011),The Arc of Human Rights Priorities : A New Model for Managing Business Risk, THE DANISH INSTITUTE FOR HUMAN RIGHTS,THA GLOBAL COMPACT,6.

 

ハンドブック『ケースから考える「ビジネスと人権」』

デジタル社会、気候変動、マーケティングという3つのケースをもとに、「ビジネスと人権」に関する「問題」に気づき、人権の主体である人々と「対話」し、広く問題を「解決」していくためのナビゲーションを提供しています。 詳細はこちらのページをご覧ください。

CSOネットワーク YouTubeチャンネル「10分でわかる『ビジネスと人権』」

ビジネスと人権に関する指導原則について、初めて知る、という方に向けて、ビジネスと人権に関する指導原則の3本の柱や人権デュー・ディリジェンスなどのポイントを解説しています。こちらからご覧ください。

「ビジネスと人権」、SDGs等をテーマにした研修や講師派遣のお問合せはこちらのページをご参照ください。

最新記事

カテゴリー

月別アーカイブ

ページ上部へ戻る